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問いかけは、形だけのものでしかない。崖でぼんやりと突っ立っていた人間が、どんどん重心を前に傾けていた。どう考えても飛び降りようとしていたとしか思えない。
崖から固い地面まで二十メートル程、さらに大小の岩も連なっている。頭から落ちてしまえば、まず助からないだろう。
アマネの問いに青年は何も返さない。まさか自殺しようとしていました、などとは流石に言えないのだろう。
苦い顔を浮かべる彼の腕を更に強く掴み直す。目の前で人の死に様を見るなど真っ平ごめんだ、この手は絶対に離さない。
「……君には、関係ないよ」
少しばかりの沈黙の末、青年の口から出てきたのはそんな言葉だった。
正直、もう少しまともな言い訳でも出てくるかと考えていたアマネにとってこれはある意味予想外だ。嘘でも、はったりでも、誤魔化しでも、いくらでも出来る筈なのに。
否定しないのは潔いが、だからといってそれを許すわけにはいかなかった。
「人が死のうとしてるのを目撃した時点で[関係ない]じゃ済まされない」
「それは……」
また言い淀む青年に苛ついて、思わず眉間にシワを寄せる。全く、どうしてこんなことになってしまったのか。
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