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月見野舜(つきみのあまね)はその免許(俗にヒーローライセンスと呼ぶ)を持っている。
しかし、別に特別なことではない。お伽話に出てくるような剣と魔法の世界では戦える人間は貴重なのかもしれないが、この世界では訓練を積んで免許さえ取れば誰でもヒーローを名乗ることが出来るのだ。
そもそも[ヒーロー]という呼称自体が俗世間によって付けられたあだ名のようなもので、それ自体に特別な意味はない。
魔獣討伐者、だと名前が長いからもっと簡単に。なんでも略したがる若者と大差ない。
アマネは中部地方の山間部にある小さな町に住んでいた。車がないと生活することすら難しいほどにアクセスは悪いが、豊かな自然と穏やかな気風が根付く良い町だった。
「山に行くのは良いが、気ぃつけろよ。あの辺りは魔獣の情報も入ってるからな」
荷物の確認をしていると、ソファで新聞を読んでいた男が忠告してくる。手は止めないまま、アマネは「分かってる」と頷いた。
「もう百回は行ってるもの、大丈夫よ。そもそも、ヒーローがヒーローの心配してたら世話ないし」
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