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「びっくりしたよ…いきなり誰かと思った」 病院を出て、私と卓也は並んで歩いていた。 ここの病院は最寄りの駅から15分ほど歩いたところにある。 電車で来た私を、卓也は送って行くとさっきから言っている。 「アハハ…でもすぐ気づいたろ? 髪の毛意外はあんま変わってないし」 卓也は真っ黒い髪を触ってみせた。 高校の頃、卓也は髪をバレない程度に(バレてたけど)茶色く染めていた。 それで最初、勝手に苦手意識を持ったのを覚えてる。 「そりゃ気づくよ。 ずっと後ろの席だし、グループも一緒だったんだから。 3年間、席替えもクラス替えも無かったし」 私は処方された薬をカバンに入れた。 3種類ほど薬が出たけど、多分途中で飲まなくなるなと思った。 「なんか最初の頃さ、美咲が中学の頃生徒会やってたって聞いて。あれですげぇ優等生だと思ってさ。 とっつきにくそーとか思ったんだよな」 「フフフ…でも優等生だったでしょ? 授業中寝ないし、先生の話もちゃんと聞くし、服も目がつけられるほど着崩さないし、髪も染めてない」 思い出して私はつい笑ってしまった。 卓也はこれを全てやっていた、私と真逆の生徒だったからだ。 「でも」 「「話したら普通だった」」 卓也と声を揃えて同じ言葉が出た事に驚いて、私と卓也は立ち止まった。 そして目を合わせて笑った。 喉が痛くて、熱が高い不快感を、私は少しの間忘れていた。 「あ、そこ。その駐車場」 卓也は向かって左側にある駐車場を指さした。 「本当にいいよ!体調そこまで悪くないし… なんなら、行きは電車と歩きで来たんだし」 私は手を前にして断りを入れる仕草をした。 男性の車になんて、もう何年も乗っていない。 それにメイクもうっすらとしかしてないし、服装だって随分ラフだ。 高校を卒業してから、もう10年ぴったり経っている。 スーツ姿の卓也の助手席に座るのに、ずいぶん抵抗を感じてしまう。 「いいって、いいって! 俺行くところ通り道だし。 家の近くまでなら…な!?」 卓也は強引に駐車場の方まで歩いて行くと、車の鍵を開けた。 紺色のスポーツカー。 いや、違うかも…スポーツカータイプ? スポーツワゴン?こういう形の車をなんと言うんだろう。 「乗って?」 私は断りきれずに、助手席に乗り込んだ。 なるべくぎこちない動作をしないように、なるべくスムーズに。 いたって自然に乗り込む。 「30分くらいで着くから」 卓也が車に乗ると、自分の心臓がまたドキドキ音を立てた。 さりげなく窓の外に目をやる。 そのドキドキが異性の車に乗るのが久々だからなのか、それとも隣にいるのが卓也だからなのかは分からず、私は知らないふりを決め込んだ。
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