赤い扉、青い扉

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「家が見えたの?」 「うん。だから帰れそう」 「よかった……」 「でも」  私は右側にある、青い扉へ視線を移す。 「青い扉は、どこへ行くんだろう」 「そんなこと、気にしなくていいんじゃない? とにかく、早く帰ってきて。そこは危険な場所かもしれないし」 「そうだね……」  確かに、一刻も早く、この変な世界から抜け出したい。この扉が、いつ消えてしまうかもわからないし。  そう思い、光の中へ一歩踏み出す。  その時だった。 「ちょっと待っておくれ」  聞き覚えのある声に、思わず振り返る。  数メートル後ろに、懐かしい姿が見えた。 「おじい……ちゃん?」    艶のある白髪と、丸まった背中、優しい目。私が誕生日プレゼントにあげた、青いニットのベストを着ている。 「春花。その扉じゃないよ。こっちの扉だ。間違っちゃあ、いけないよ」  そう言って祖父が指差すのは、となりの青い扉だった。 「何? そこにおじいちゃんがいるの?」  電話の向こうで、母の声色が変わる。 「うん。『青い扉へ行って』って言ってる」 「だめよ! 絶対、行っちゃだめ!!」 「どうして?」 「『どうして』って……。あなた、覚えてないの? おじいちゃんは二年前に……」 「春花、こっちだよ。こっちへおいで」  いつの間にか、祖父は青い扉の前に移動し、こちらに向かって手招きをしている。  その姿に、思わず鳥肌が立つ。 「こっちだよ……、春花。こっちへ……、こっちへおいで……」  気がつくと、足が青い扉のほうへ進んでいた。 「だめよ、春ちゃん! そっちに行かないで! 行っちゃだめ!!」  母の必死な声が、スマートフォンから響いている。  それでも私は青い扉の前に立ち、ドアノブをガチャリと回した。
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