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気がつくと、真っ白な天井があった。
「春花! 春花!」
自分を呼ぶ声のほうへ視線を向けると、涙でぐちゃぐちゃになった両親の顔が見えた。
「お……かあさん? お父さん……」
「よかった! 生きてて……。本当によかった……!」
母は私を抱きしめるように覆い被さると、声をあげて泣きだした。
「ここは病院だよ。覚えてるかい? 春花、学校の帰りに、車に接触したんだ」
父が涙を拭いながら、状況を説明してくれる。
一時的に気を失っていたけれど、幸いなことに、右足の骨折だけで済んだようだ。
ああ、そっか。思い出した。
家の目の前で、車にぶつかって……。
あれ?
「ねえ、お父さん。私が事故に遭ったのって、家の前だよね……?」
すると、お父さんの顔色が変わる。
「……いや。神渡川沿いの、空き地の前の道だよ。通学路から大きく外れていたし、家とは真逆の方角だ」
「え……?」
記憶の中だと、私は家の前まで来ていた。逆方向のはずがない。
「お父さん、違うよ。だって私、ちゃんと覚えてるもん。赤い壁に黒い屋根なんて、この町じゃウチだけだし……」
すると、今まで泣いていた母まで、顔色を変えて私の顔を見た。
「春花……。何言ってるの……? ウチは赤い壁じゃないでしょ。グレーの壁に、黒い屋根よ……。それに、この町で赤い家なんて、見たことない」
「え……。そんなはずが……。だってお母さん、電話で……」
そう言いかけて、私は違和感を覚えた。
あの時、暗闇の中で、母は「春ちゃん」って言っていた……。
でも今、目の前にいる母は、私のことを「春花」って呼んでいる。幼い頃はともかく、ここ数年は「春ちゃん」なんて呼ばれたことはなかった。
声も、なんだか違ったような…………。
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