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考える星に
大きなドームの中心部分から、月光が差し込んでいる。
「今日は機嫌が良いみたいです。雲一つ無い。ラッキーですね」
一緒にドームの下から星空を眺めていたオリバーがつぶやき、素早く望遠鏡の調整に移った。腕まくりをした彼の腕は黒い。白衣の白と肌の黒のコントラストが美しい。
テキパキと観測の準備を進める新人研究員のオリバーは、突然観測所に訪れた私を歓迎してくれた。私が去ってから20年経った観測所は様変わりしていて、見知っている研究員も皆いなくなっていて。案内される場所全てが新鮮だった。
オリバーは人懐っこい青年で、初対面の私に様々なことを話してくれた。私と同じように、子供の頃から星に魅入られていること、肌の色で迫害を受け、母国にいられなくなったこと、自身の黒い肌が好きなこと。
「さぁ、見れますよ」
オリバーに促されて、巨大な砲台のような望遠鏡を覗き込む。視野が星に満たされた。珍しい星を見つけて、思わず声が出る。
「すごい。りゅう座イオタ星だ」
「そりゃすごい。りゅう座イオタ星を公転する惑星の名前は、ヒュパティアでしたね。私、あの名言が好きなんです」
「古代の女性天文学者だね。”間違っていても考え続けなさい”か」
「そう。良い答えが出るかどうかなんて気にせず、僕たちは生涯ずっと自分の頭で考えるべきなんだって。何か、とても納得できた名言なんです」
「星の研究にも、答えなんか無いな。おかげで、ずっと星のことを考えていられる」
オリバーはにかっと笑った。
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