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タイムボックス・セレクション
シックなレンガ調の外観と完全に会っていないソフトクリーム型ランプの前で、もう10分立ち止まっている。店名がどこにも書かれていない。ガラス扉が突然開き、お客さんらしき男性が出てきた。
よし、と意気込み、扉の取っ手を掴む。
様々な形のランプやランタンが吊るされている店内には、年代物のカメラや酒瓶、時計や猟銃などが飾られていた。まとまりがないようで、パズルのように見事に収まっている調度品の数々。
ためらっていたことなど忘れて、私は重厚かつレトロカントリーな内装の店内に引き込まれていった。
いつできたのか、誰も知らない。しかし、近所にはファンが多い。この街に引っ越してきたばかりの私も、噂で知った。ジャンルにこだわらない雑貨店、らしい。
商品というよりも、展示品のように大事に並べられている品物を見て回っていると、二階から店主が下りてきた。
「どうぞ、ごゆっくり。二階もございますよ」
気難しい老人なのではと予想していたが、意外にも若く穏やかそうな店主だった。声や見た目では、女性なのか男性なのか、見当がつかない。若そうに見えるが、物腰や雰囲気は老人のようにも感じる。
少し軋む階段を上がって、二階に辿り着く。一階よりも調度品が少ない二階には、壁一面に様々な写真やポスター、絵画や掛け軸などがランダムに展示されている。
古い品が多いが、2109年、2079年、2158年など、あり得ない未来の日付が記された品物もあった。
時間を忘れて品物に見入っていると、赤いチューリップを一輪握って、はにかんでいる子供の写真に目が留まる。
「その写真はね。とある国の紛争地域で撮られたんですよ」
はっとして横を向くと、店主が微笑んで写真を見つめていた。
「お金にならないからと、捨てられてしまった写真です。しかし、ここに在る限り、いつか所有するべき人と会えるでしょう」
「所有するべき人?」
店主は深い藍色の瞳を私に向けた。
「このお店では、商品を心から欲しいと思う人には、無料で譲り渡しています。いえ、返している、送り出している、と言うべきですね」
「え……無料で?返す?」
頷いた店主は、片手に持っていた封筒を私に差し出した。
「あなたには、この品がおすすめです」
受け取った封筒の裏面を見て、驚愕する。見覚えのある筆跡。住所。名前。引っ越しの時に、誤って捨ててしまった手紙だった。もう未来永劫、送られてこないであろう、幼馴染からの直筆の手紙だった。
急いで、文面を確認する。本物だ。
「なんで、ここに」
「あなたが持つべき品物だからです。そして、今あなたがここに来たからです。お返しします。これからは、しっかり保管なさいね」
涙を堪えて、大きく頷いた。
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