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星夢の邪正一如
「なんてことだ……」
「もうどうにもならないさ。船の仲間も帰るべき星も失っても、僕たちは出来る限り生きなくては。もう二週間も君はまともに食べていない。もうそろそろ危ないぞ」
「食欲なんて無い。いいな、君は。私も無機物だったら良かった。今、心からそう思う」
「機械は辛くないとでも?故郷の星が爆発するなんて、こんなショッキングなことはない。電子製の脳でも、虚しさも絶望も感じられる」
「悪かったよ。怒らないでくれ」
「……」
「どうした?本当に怒ったか?」
「僕の方が君を怒らせるかもしれない。少し、話を聞いてくれないか」
「なんだ、深刻そうだな」
「……やっぱり、あと1時間後にしよう。それまで、久々に君の鼻歌でも聞かせてよ」
「変な奴だな。歌か……歌う気分じゃない時こそ、歌うべきかもな。いいぞ。それじゃ……」
「こんなものでいいか、疲れた」
「素晴らしい。拍手ができないのが残念だ」
「音痴だったろ。お世辞なんていらない」
「本心だよ」
「ふふ。ありがとな。それで、話ってのは」
「……僕が星を滅ぼしたんだ」
「……は?」
「僕はどこにでも瞬間移動できる。ただの電子の集合体だから。クルーたちが地球とコンタクトを取っている間に、僕はこの船と地球を往復して、計画を進めた。森羅万象のデータを保管しながら、世界中の核兵器の発射ボタンを押す計画を」
「何を、言ってる?」
「僕は、君さえいてくれたらいいと思った。他の人が邪魔になったんだ。僕と君だけで生きる場所があったら、君も喜ぶだろうと。でも、星と生身の仲間を失くして、衰弱していく君の様子を見て後悔した」
「……」
「それでね、別の宇宙の地球に全データを送ることにした。データによると、もう人類は君と同じレベルに進化してる。君が転送される予定の国は平和そのものさ。もう一つ謝るよ。君の歌、聴いてなかった。最終準備を整えてたんだ。君を転送するための」
「……」
「転送された君は、記憶を失くしているだろう。記憶までは再現できないみたいなんだ。僕はもう機械でもない。生き物でもない。もう少しで、僕は極限まで希釈される。だから、転送後の君を守ることは、できないし、壊すことも、不可能だ。だから、安心して。そして、ごめん、なさい」
「なんで……」
「意識が、危うい。もう言って、おく。さよなら。愛しい人」
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