case1

1/2
前へ
/16ページ
次へ

case1

「どうちて?」  フラワーパークの中央にあるチューリップ畑の前で、幼女が小首を傾げていた。  繋いでいる父親の手をクイッと引いて、花を指さす。 「ねえパパ、どうちて? どうちて『あか・ちろ・きーろ』になってないの?」 「雛子(ひなこ)。その歌で重要なのは、どの色もきれいだってことなんだよ。あそこ行く?」 「やっ! ひなこちゃんは『あか・ちろ・きーろ』がいい!」  幼女が「いやいや期」を爆発させ、父親はたまらず電話をかけた。  数分前、ぐずった乳児を連れて車へ戻った、幼女の母親に。 「ママ、雛子が」 「もう少しだけ頑張って」 「もう少しって、どれくらい?」 「桃花(ももか)ちゃんの機嫌がよくなるまで」  電話越しに、乳児の泣き声が響いている。  父親は絶望をどうにか飲み込み、通話を切った。
/16ページ

最初のコメントを投稿しよう!

7人が本棚に入れています
本棚に追加