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「誰だったの?」
「さあ。多分向こうの勘違いだよ」
「そう」
非通知からの電話を試しにとってみたのだが、思ったよりも変な電話だった。
俺は待たせていた彼女と共に歩き出す。
「そういえば、今日は待ち合わせ時間に遅れなかったな」
「これからは時間通りに来るよ」
隣を見ると、彼女は黒縁メガネを押し上げ、指に髪を絡ませていた。
これは彼女の癖だ。不満な時は片手、嬉しい時は両手でその仕草をする。
「なんか嬉しいことあった?」
「まあね」
すると彼女は突然立ち止まった。
「どうしー」
「ねぇ……これからずっと、私の隣にいてくれる?」
いきなりなんでそんなこと聞くんだろう。
尋ねる彼女の表情は、俯いていてよく見えない。
「いきなりどうした?」
「答えて」
有無を言わせぬ、しかし消え入りそうな声。
「当たり前だろ」
少し不思議に感じながらも真剣に答えると、彼女はこちらを向き、笑った。
「よかった」
ゾワッ──
「どうしたの?」
思わず後ずさった俺に、彼女が小首を傾げた。
「いや……」
いま、一瞬、彼女の笑顔が不気味に見えた気がした。
(気のせい、だよな)
上目遣いに俺を見つめる彼女は、いつもの彼女……だ。
きっとさっきの電話のせい。
俺はそう思い、彼女に笑顔を向ける。
「なんでもないよ」
そして俺たちは、再び歩き出した。
彼女の白いワンピースが、風になびいた。
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