CONFFESION

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CONFFESION

   それからしばらくあやから連絡はなかった。 彰人は何故か寂しく感じていた。 もうこのまま連絡が途切れて終わるのだろう、、そう思っていた。  その日も彰人は仕事に出かけ、遅い時間に帰宅した。帰りにお弁当を一つ買ってマンションの鍵を開けた。「キーッ」という重苦しい音ともに扉が開き真っ暗な部屋に着いた。 「ただいま」 テーブルに鍵を置いて誰もいない部屋の机の方を見た。 そこには10年前にこの世を去った恋人、香織の写真が飾られていた。  彰人の心は先日、あやに出会ったことによりかき乱されていた。 香織が亡くなった日、彰人は誰も居ない部屋で声を殺して泣いた。 もうこれ以上泣くことはないだろうと思うくらい泣いた。  それからの彰人は滅多に泣くことも笑うこともなくなっていた。 感情をどこかに置いてきたような毎日を過ごした。 やがて、一年、二年と経つにつれていつしか香織のことを思い出すことも少なくなっていた。  香織の元に旅立とう。そう思っていた矢先にあやに出会った。  彰人は夕食を済ませると散歩に出かけた。 暗い夜道は何処かひっそりとしていて通りには人影もなく自分だけがこの世に取り残された存在のように感じられた。  香織とよく訪れた川辺についた。 土手を下って川を見つめていた。 在りし日の香織はこの川が好きだとよく言っていた。春には綺麗な草花が咲き、夏には初夏の香り漂い、蝶々がきれいに飛んでいた。  秋になると水面に写る夕日が美しく小波が立つ光景は時間が経つのも忘れる程だった。 冬になると凛した空気の中ただ静かに澱んで流れゆく川の水が濃く深く蒼かった。  彰人は時間が経つのも忘れて川を眺めていた。いつしかの香織の笑い声が耳にこだましていた。  なぜか彰人は携帯を取り出すとあやの番号を見ていた。そして、衝動的に電話をかけていた。 「もしもし?」あやの声だった。 「あ、彰人です。こんな時間にごめん、、」 「どうかされましたか?」 「あ、いや元気かなぁと思って、、」 「元気ですよ。今お仕事終えてこれから寝ようと思ってた所です」 「そっか。遅くにごめん。先日はありがとう。それだけ伝えたくて、、」 「もしもし、彰人さん?」 「今何処に居るんですか?」 「家の近くの川辺、、」 「そう、、」 「あのさ。今度また会えないかなぁと思って、、」 しばらくあやからの返事はなかった。 「ごめん、、何でもないよ。おやすみ」 「彰人さん、、海、、海に行ってみたい、、」 あやは呟くように言った。 「もう長いこと海を見てないので、、」 「そっか、、それじゃ明日行こう」 彰人は努めて明るく振る舞った。 「うん。ありがとう」 「それじゃ、明日迎えに行くから」 「おやすみ、、」 「おやすみなさい、、」  あやからの通話が途切れた。 彰人は光の消えた携帯を見ていた。 次会ったらもうあやには会わないでおこう。 彰人はそう思っていた。  次の日、彰人は朝早くに目覚めた。 時計を見るとまだ6時で辺りはうっすらと暗かった。熱いコーヒーを淹れてタバコに火をつけた。 あの日、自分は死ぬはずだった。 ただどうしても一目あやに会いたかった。 それは嘘偽りなどなく彰人の本心だった。 あやにもう一度会ったら自分は心残りなくこの世を旅立てる。そう思った。  TVを付けると朝のワイドショーが流れていて事件や芸能人のスクープが流れていた。  人気アイドルグループの活動休止や若い青年が起こした事件などが取り上げられていた。 SNSではさも自分が見たことのように憶測に過ぎない意見が発信され、そのことでまた新たな憶測が飛びかっていた。  この世は残酷だ。 平等などという観念はなく、資本主義の社会では弱いものは淘汰され、この世から消えてゆく運命にある、、 嘘と真実も紙一重で嘘も通ってしまえばそれが真実になってゆく、、  自分が生きた意味は何だったのか、、彰人は一抹の悲しさを感じていた。  香織といた頃はこの世の全てが綺麗にみえた。 目に見えるもの触れるものその全てに色と温もりがあった。 ただ今は色のついていないモノクロの世界を彰人は生きていたー  やがてうとうとしていた彰人が目を覚ますとあやとの約束の時間が近づいていた。  急いで支度をしてあやを迎えに行った。 日の落ちかけた夕暮れは眩い光を放っていてもう冬が近づくことを彰人に教えていた。 車を街の方に走らせると30分程であやの家の近くに着いた。 近所の公園で待っているとあやがこちらに手を振りながら車に近づいてきた。 あやはジーンズに紺色のシャツ、そしてベージュのカーディガンを羽織っていた。 「すいません、、遅くなって、、」 「大丈夫ですよ」 彰人は微笑むとアクセルを踏んだ。 「もう会えないと思ってました、、」 彰人はあやの方をみて都市高速の方へと車を走らせた。 「すいません、、仕事が忙しくてなかなか連絡出来なくて、、」 あやは本当に申し訳なさそうに呟いた。  流れゆく都会の景色は美しく夕日が眩しかった。 やがてゆっくりと徐行して海のすぐ近くのインターで降りた。  そこには青く綺麗な海が広がっていて白い砂浜が見えた。 茜色に海は染まり小波が立っていた。 埠頭に着いて車を止めた。 堤防を降りて白い砂浜の広がる海に降りた。 季節外れの海は人影もなく、ただ波の音だけが聞こえていた。 しばらくの沈黙が続いた。 「綺麗ですね、、」 彰人は呟いた。 あやはただ黙って海を見つめていた。 「あの、、」 あやは何かを言いかけてやめた。 彰人もただ黙って海を見つめていた。 「あの日、死ぬつもりだったんだ、、」 彰人はあやに告げた。 「あやさんに出会えた日、、僕は死ぬつもりだった」 「え?」 「もうどうでも良いやって思ってたんだ、、」 「、、、。」 「そう、、」 「人生最後の思い出にしたかったんだ、、」 「だからあの日AI(アイ)に登録したんだ。」 「最後に思い出を残したかった、、」 「彰人さん、、」 「ごめんなさい、、」 「彰人さんごめんなさい、、」 「私、彰人さんを騙してたんです。」 あやは体を震わせながら彰人に告げた。 「私、あの店に雇われて、、それでお金がもらえたんです、、」 「本当はフリーライターでも何でもなくただAI(アイ)でアルバイトをするフリーターなんです」 「生活に困って仕方なくAI(アイ)に登録してたんです、、」 「生きていくために仕方なく、、」 彰人はただ静かに波打つ海を見つめていた。 「大丈夫だよ」 「僕、知ってたんだ、、」 「知ってたんだ、、」 「え?」 「たまたま目にした求人情報でAIのアルバイトレディ募集の広告見たんだ。だから知ってたんだ、、」 「そう、、」 あやの瞳に涙が滲んでいた。 「それでも良かった、、」 「それでも、、」 「死ぬ前に思い出を作りたかった、、」 彰人は優しい笑顔を浮かべていた。 「本当にごめんなさい、、」 あやの瞳からポロポロと涙が溢れた。 「嬉しかった、、あやさんに出会えて、、」 彰人は笑顔を見せると日の落ちる海を見つめていた。 やがてあやは静かに語り出した。 「彰人さん、、死ぬなんて言わないで、、」 「どんなに苦しくてもどんなに無意味でも生きていて欲しい、、」 「絶対、私が彰人さんを死なせない。絶対に、、」 「AI(アイ)のお仕事はもうしません、、」 「お仕事だったとはいえ、きっと私も誰かに出会いたかったんだと思います」 「誰かに出会って自分が生きている意味を見つけたかったんだと思います、、」 「ただ苦しくて、、ただ寂しかった、、」 「彰人さんと同じです」 「この街の思い出に綺麗な思い出を残したかった、、」そう話すあやの瞳には涙が滲んでいた。 「私、この街に来て何一つ良い思い出なんてなかった、、」 「だから、最後に思い出を作りたかった、、」 「最後に、、」 夕日にあやの涙が輝いてキラキラと輝いていた。二人を優しく見守る波の音だけがただ静かに聞こえていた。 「あやさん、一つだけ約束して欲しいんです」 彰人はあやの目を見て言った。 「絶対に幸せになるまで生きるって約束して下さい」 「僕ももう死ぬなんて言わない」 「だから、あやさんも生きて欲しい、、」 「これから誰と出会ってもどんな人生が待ってても生きてて欲しんです」 風があやの髪を揺らしていた。 「約束します」 「絶対に生きるって約束します」  あやは泣きながら笑っていた。 その姿は儚く彰人にはとても美しいものに感じられたー
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