教訓の無い話。

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1章 百花繚乱たる花ざかりの森の中へ逃げ込むようにして入り込みひたすらに走る少女。 白い鹿は、少女を見つめ、、、、、、コバルト色のお月様がマロニエの木の下に落ちたのでしょうかね?、、、、、、少女は、はにかんだような、哭きたいような表情で、、、、メグは、帰ってこない! もう、帰ってこない! 、、、、、、では、明け方の煉瓦館で、未だ瓦斯灯の灯るころ、やわらかい夜風の音が聴こえたのでありましょうか? お嬢さん?いかがでしょう、ネェッ!ふんっ、ふんっ!、、、、、、メグは帰ってこないでしょッ!、、、、、、メグ、、、、、、メグ、、、、、、wwwww、、、、、、そうですか、では、あなたの人生が、お月様のひかりで満たされますよう、今夜は、一晩中お祈りしてさしあげましょう、お嬢さん、それにつけても、ですねー、、、、、、言いかけた白い鹿は、青く発光して、満月の晩に向かって走り去っていってしまったという。 2章 赤鉛筆のような、それでいて、森のとても大きないっぽんの木が、目玉をぎょろりとさせながら、、、、、、白い並木道を、歌を唄いながら、歩いているうちに、思い出すことだろうよ、きっと思い出すことだろうよ!、、、、、、と、叫んだ。少女は、びっくりして、振り返った、、、、、、33歳のコックは、小さな酋長と、ふたりで、ジャン.ジュネの、泥棒日記を読んだ。しかも、ベッドの中で、しかも、真夜中だ、、、、、、すると、赤鉛筆のような木は、ザワザワッ、と揺れて、いつの間に、黄色くひかるチョッキをまとい、、、、、、これは、2098年の、ある満月の晩に、お月様から戴いた、蛍光式のチョッキであります、、、、、、と、自慢らしく叫んだ、、、、、、さて、半透明に、シガレットでも、吸って、よござんすかな?、、、、、、赤鉛筆のような木は、煙草をくゆらしながら、、、、、、巨きな緑の目玉の神様は、どこへどうやらいったいどこぞへと!枯れ草の里か?、、、、、、いいえ、きっと、水鉄砲の水の行方程度の座興でございましょう、、、、、、ふむ、律儀な魂の群れよ、支那蕎麦を、何杯くらい食べた?、、、、、、腹がくちくて、あの魂たちも、それぞれに胡座をかいて眠っていることでしょう、、、、、、友よ、愛すべき春は、もう、その薫りを失ったのであろうか?、、、、、、動悸を打つ心臓が、今でもそうして勝ち誇るあなたに残っているならば、再び春も、薫るはず、、、、、、私は、どうすればいい?、、、、、、きららに光る森のいざないを、あなたに差し上げましょう、、、、、、まさしく、私は、そなたに感謝しなければならないらしい、、、、、、そして、赤鉛筆のような木は、眼を閉じ、すると、白と真紅の曙の光が、渦巻くように森を支配し、赤鉛筆のような木は、大いなる眠りに堕ちた。夜明けだった。少女は、はっ、と眼が覚めたような気がした。 3章 少女は、水平線に沈む夕陽の色に染められた、海を見つめて、長い髪を肩の辺りで揺らしながら、砂浜を歩いていた。白いサンダルを、片方ずつ両手に提げて、向こうから、犬の散歩であろう、、、あるsomaiな美しい季節、、、と、形容したくなるような、端麗な風貌をもつ女人が、風に吹かれてやってきた。貴女はいつでもやってきて、何処へでも去ってゆくだろう、、、、、、と、いうようなニュアンスと、翼もて、芸術的な羽ばたきをためらうことなく、、、、、、と、でも言いたくなるような、何処か、アーティスティックで孤独な風貌を携えた人である、、、、、、こんにちは、、、、、、と、少女は、頭を下げて、立ち止まった。すると、女人はひとつ頷き、、、、、、そうですか、今夜はおぼろげな伝説の朧月夜となりますかしら?、、、、、、と、微笑んでみせた、、、、、、今夜、古風な琴の音が、この界隈に、しづもるようにして、人々の耳朶を濡らすことでしょう、、、、、、少女は、夢見る眼差しを、その美しい人に投げて、言葉を紡いだ、、、、、、神秘の環の連鎖、ですね、、、、、、お月様は今宵何を語ろうとするのでしょう、お姉さま、、、、、、お姉さま、と、少女は、その人に語りかける、、、、、、太陽の炎を奪った、と、でも、、、、、、と、女人、、、、、、永劫に輝く北極星の彼方に、すべっていったいのちが、果たして、あるのかどうか、その前にお月様に、、、、、、いのちを託す、、、、、、いや、奪われる、、、、、、そんなことも、あるかもしれません、ほんとうに、、、、、、二人は、顔を見合わせた。そしてにっこりと微笑んで、どちらからともなく歩きだし、擦れ違っていった。ほんのひととき、少女にとっては、幻のような時間であった、、、、、、今日のまどいは、聖らかな海のおもてを彩る落日なのでしょうか!、、、、、、消えゆく女人の後ろ姿に、少女は、そう絶叫した。女人は黙したまま、片手を挙げ、去っていった。何処からか、瀬戸龍介の、ビューティフル.モーニングが、幽かに聞こえてくるようだ、、、、、、 4章 月夜の森で、呟くようにひそひそ話をしている妖精たちを、、、嗚呼、いったい、どうすれば、お月様に愛されるというのでしょう、、、、、、少女は、苦悩しながら、楡の木陰で、ピェラッタ伊藤に凭れた。すると、ピェラッタは、もじもじしながら、、、、、、昨日の夜の哀愁の旋律の川に、過ぎ去った夕焼け空の残骸を流し込み、悲嘆慟哭すれば、ことは済むように思います、、、、、、と、応えた、、、、、、ありがとうございます、しかし、私は、昨日の夜の哀愁とは、、、、、、青白き月光ですね、、、、、、はい、迷妄する真っ赤な白鷺の羽ばたきのように不安なのです、ピェラッタさん、、、、、、そうですか、そうですね、では、青いお月様を、あなたの頭上に掛けて差し上げましょう。ほうら、リンドンリンドン、、、、、、あらまあ、素敵、リンドンリンドン、、、、、、青いリボンを黄色いガラスの瓶に巻きつけ、冥王星のため息を、そっと吹き掛けてください、、、、、、お月様だって、そんなやさしい言葉を掛けられたら、泣き出すに決まってます、、、、、、そのときに、、、、、、ええ、ピェラッタさんは、お月様か、タクラマカン砂漠に、合間見えることでしょう、タクラマカン砂漠だって、べつに、構わないでしょう、、、、、、えっ、タクラマカン砂漠!? どうして、そんなことを仰有るのですか!!、、、、、、お月様が作った、銀の、ジッポーのライターくらいのものですから、、、、、、シガレットは、どうですか、お持ちですか?、、、、、、青磁色の、薄荷煙草を、一本だけなら、、、、、、ほう、、、、、、火を点けて下さらないのですか?、、、、、、ふん、、、、、、馬鹿にしてるったらありゃしない、、、、、、ピェラッタ伊藤は、タバコに火を点けると、まん丸な、青白いお月様を、眺めた、、、、、、子供が、タバコを使うもんじゃあありませんぜ、お嬢さん、、、、、、ふんッ!、、、、、、少女は、足許の小石を蹴り飛ばした、、、、、、だって、これは、チョコシガレットなのよ、ほら、、、、、、少女は、タバコを剥いて、黒いチョコの棒が、出てくると、静かに、齧った、、、、、、なんだか、とっても、いい月夜ですね、、、、、、シタールをお聴きなさい、、、、、、ピェラッタ伊藤は、荘厳な口調で宣言した。西を向いた。確かに、どこからか、神秘的なシタールの音色が聴こえたのだったが、、、、、、ちぇっ、山栗鼠が弾いてやがる、、、、、、ピェラッタは、舌打ちした、、、、、、羚羊じゃなきゃ駄目だ、本物の味わいの深い、シタールの演奏にはならない、、、、、、青い夜風の果てに彷徨う銀の涙の滴りは?、、、、、、無論、少女の哀しみに似つかわしいでしょう、、、、、、ありがとうございます、、、、、、ああ、羚羊が、シタールを弾いているようですよ、お嬢さん、、、、、、そうですか、、、、、、美しい、誠に美しい、本当に美しい、インドのあの壮大な夕暮れ、しかも、夕日が沈むその直前の夕暮れのようだ、、、、、、それは、本当に、インドの夕日が沈む直前の夕暮れのような演奏だった。美しかった。 *** 白樺の花のゆれる夕暮れは、天使だけのものですか?、、、、、、少女は、ピェラッタ伊藤に訊ねた、、、、、、いいえ、我々のものでも、あります、ささやかな木の葉のさんざめきは、夕焼けを乱反射し、必ず、きっときっと、照りはえてゆくのですから、、、、、、素敵、、、、、、ごらんなさい、私たちの夕焼けです、、、、、、見ると、低音の管楽器が、ブォーンと鳴り響くかのような夕焼けが、家並みをシルエットにし、棚引いているかのように、うねっているかのように、輝いていた。決して、最後の夕焼けではないのだが、、、、、、これは、最後の夕焼けです、きっとそうです、間違いありません、、、、、、ピェラッタ伊藤は、思い詰めた様子で呟くのだった、、、、、、!!、、、、、、!!、、、、、、夕焼けは、立ち竦む二人を映し出すと、二人をまったき沈黙に導き、穏やかな敬虔な祈りへと、誘うかのようであった。夕焼け空に、小さな鳥が、二三羽、ゆれるように彷徨って居る。夕焼け空で、ドビュッシーの笑顔が浮かぶ。音楽が聴こえるようにして。海、だ。確かに、この曲だと想えるのだが、、、、、、奇妙にシタールに、似合う。 (了)
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