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数寄屋造りの迎門は木製の格子戸になっていて、その向こうに広い庭が透けて見えた。夜の8時を回っていたので、その向こうにある家屋は見えなかった。とりあえず玄関のインターホンを鳴らすと、ハ~イと中から女性の声。
「こんばんは。すみません、この家の娘さんを送って来た者です」
結羽ができるだけ怪しまれないように挨拶する。
「あらまぁ、ミネコさんをですか? 」
そう言うと、相手は返事も聞かずにインターホンを切ってしまった。
「え~、どうなってるんだこの家の奴らは! 」と不満が声に出た。
しかも、インターホンを即切りした割には門を開けるまでに時間がかかり過ぎる。よっぽどのろまな女性なのか、玄関から門までの距離があるのか……
「お待たせしました。どうぞお入りください」
ようやく姿を現した50代後半のおばちゃんが扉を全開にして、中に入るよう促す。
――いや、もうここでおさらばしたいのだが……
こちらの思いを無視して、どんどん奥へ戻って行く。
「アンタさぁ、もう意識戻ってんだろ? 自分の足で歩いて行きなよ。いつまで俺に面倒かけてんだよ」
半分切れながら、結羽は抱えている女に文句を言った。
「気づいてた? いいじゃない。ここまで付き合ったんだから、最後まで付き合ってよ」
女が目をつむったまま、いけしゃあしゃあとほざいた。文句を言いながらも、とりあえず足は奥へと向かう。
「嫌だね、アンタの払ったお金でサービスできるのは、ここまでだ。もういいだろ、俺は帰るから」
そう言うと、立ち止まり今にも彼女の身体を投げ出そうとした。
「待ってよ。本題はここからだから。力を借して、お金もちゃんと払うから」
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