モノローグ

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モノローグ

 黒水 結羽( くろみず ゆう)は、少し前から誰かに見られているような…… いや、見張られてるような気配を感じて落ち着かなかった。それは、四六時中というのではなく、趣味でやってるストリートでの弾き語りをしている時に限られていた。 【カンタ、今日も見張ってる奴、いるか? 】 【ちょっと待って、見てくる】  カンタと呼ばれた相棒が去ったところで、結羽(ゆう)が次の曲のイントロを奏で始める。  この場所で歌い始めて1年半位になる。たまにオリジナル曲を歌うが、その時々に通りかかる人に合わせて曲目は変えていた。  彼が陣取っている場所は、奈良県鶴丘市の繁華街から少し先にある橋のたもと。四季を映す五月雨川(さみだれがわ)は歌うたいが背景にするには格好の舞台だ。夕方には、学生や若いサラリーマン達が行き交う。深夜になると深酒をした男女が千鳥足で通り過ぎる。たまに、暇そうな親父世代や、人待ち顔の女が側に来て聞き入っている。  なので、演歌は無理だが昔流行ったというフォークソングとやらを歌いだすと、ぱっと表情を変えて座り込む。ワケありな顔で佇んでいる女性には、恋愛ドラマの主題歌をぶつけると、たいがいは涙を流して聞いている。ここにいると、歌は年齢を超えることを肌で感じられた。  一応投げ銭用に箱は置いているものの、お金を入れてもらわなくても気にしない。単に、歌いたいだけ。それを聞いて喜んでくれるなら、来るもの拒まず。タダ聞き上等だ。 ※本作に出てくる地名は架空の名前です※ ※【】内はテレパシーでの会話※
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