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「は? 何言ってるの? 」
結羽は呆れて、掴んでいた女の腕を離した。
そのせいで身体のバランスをくずした女は、地面に尻もちをついてしまった。さすがに痛かったと見えて、腰をさすりながら結羽を睨みつける。
「もう、乱暴ね。これでも客なのよ、私。あなたねぇ、ここまで来たんだから乗りかかった船に乗りなさいよ」
――ここまで来たのは、自分の意志じゃない!
と結羽は心の中で悪態をつく。
「こんな小芝居して、何が仕事だよ。仕事ならあの場で、依頼すればいいんだよ」
「それができなかったの! 依頼主が、動けないんだから。しかも、あんな場所で頼めるようなことじゃないし…… 」
「へぇ~ 」
ここにきてやっと結羽の表情が和らいだ。
「わかった。なら、その依頼主とやらに会わせてもらおうかー」
言いながら右手を差しのべる。彼女が立ち上がるのを手助けするためだ。
「もういいわよ。どうせ手を付いちゃったから汚れてるし」
さっきまで、正体がない程身体を預けていた人物とは思えないくらい、女は起き上がると、しっかりした足取りで玄関に向かってスタスタと歩いて行った。
――まったく、何て女だ。女優並みの演技をしやがって……
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