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 降り出した綿雪が色を取り戻しかけていた景色をあっという間に白く包み込んでゆく。 目を閉じれば降り積もる雪の音さえ聞こえてきそうだ。 あの人は今日も来ないのかな。まさかあの人は僕の妄想が見せた幻だったなんて事はないよね、さすがにそれはない、と思いたい。 嘘でも幻でもいいからもう一度あの人に会いたい。そう強く思ってしまうほど僕はあの人に惹かれていた。 「お前も元気がないのか」 不意に聞こえた声に視線を向けると会いたいと願っていた人が傾いた雪だるまの前にしゃがみ込んでいた。 声をかけたい、そう思うのに、その人の背中が寂しそうで躊躇ってしまう。 「これでもう寂しくないな」 そう言って立ち上がるその人の足元にはさっきまで崩れそうになっていた雪だるまがきちんと立っていて、その隣にもう一つ寄り添うように雪だるまが置かれていた。 その人の言う通り、ふたつになった雪だるまは嬉しそうに見える。 この人なら、きっとこの人なら僕の気持ちを伝えても気持ち悪いと切り捨てたりはしない気がする。ずっと探し求めていた相手に会えたような気がして不思議とそう思えた。 「あの――」 踏み出そうとした僕の足は鳴り響く着信音に行き場を失ってしまう。 「はい。高井圭一(たかいけいいち)は俺ですが、はい、わかりました。伺います」 携帯をポケットにしまい、雪だるまにふっと笑みを零すと白い息を吐きながらその人は遠ざかっていった。 高井圭一……圭一って名前なんだあの人。年上っぽいから圭一さん、かな。でも呼び捨ての方が恋人って感じがする。 「圭一、好きだ」 そう言える日が来ればいいのに。 「圭一、好きだ。圭一、愛してる」 あの人を思い浮かべ小さく口に出してみる。 言葉は言霊だと小さい頃おばぁちゃんが教えてくれたっけ。 言葉にすると本当にあの人と恋人のような気がしてくる。 あの人ならきっと抱くときも優しいんだろうな。 あの長く綺麗な指で僕を優しく……。
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