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 あの人を待つ僕に柔らかな日差しが降り注ぐ。 少し溶けて傾いた雪だるまが肩を寄せ合う恋人のようで、なんだか幸せそうに見える。 僕もあの人と……妄想じゃないんだからそんなにうまくいくはずないじゃないか。 そんな考えに決心が揺らぎそうになる。 情けないなと俯く顔を上げた視界の先に佇むその人がいて、心臓がうるさいくらいに鳴りはじめた。 「今更……わかった気がするよ。お前がいないと寂しくて……」 やっと聞き取れるくらいの小さな声で呟いたその人の頬を流れる涙に身動きすらできず、鳴り止まない心臓の音を聞きながら静かに流れるその人の涙を見つめていた。  あの人はどうして泣いているんだろう。 『お前がいないと寂しい』 あの人は確かにそう言った。失恋でもしたんだろうか、今でも寂しいと泣くほど想っている相手がいるあの人に、僕が好きだと言ったところで望みなんか少しもない。 違う、望みなんてないのは知っていた。ただ僕は……気付いて欲しかっただけなんだ。 「お前の好きだった景色をひとりで見るのは辛い……俺をおいていくなよ……理央」 え……? 崩れ落ちるその人の姿に僕の中で何かが弾け、夢から醒めたような錯覚に陥る。 雪でスリップした車がまるでスローモーションのようにゆっくりと僕に近付いてくる記憶はとても鮮明で、蘇る記憶にゆっくりと目を閉じた。
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