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 ここから見る景色が好きだった。 小高い丘に佇む小さく古い神社。周りにはうっそうと木が茂り、森のように暗い。 風のざわめきに怖ささえ覚えるそんな木々の合間にぽっかり空いた空間は僕に様々な景色を見せてくれた。 木々に積もる雪のコントラストは眩しく、時折その重みに耐えかねた枝が勢いよく弾む姿は雪にはしゃぐ子供のようだ。  さくり、さくりと降り積もったばかりの雪を踏みしめる足音が僕の隣で止まり、空を見上げるその人の憂いを帯びた横顔に思わず見入ってしまう。 すらりと伸びた長い手足に黒のロングコートがよく似合っている。 かっこいい人だな。こんな人と付き合えたらいいのになぁ。 僕が好きになるのはいつだって男の人だった。初恋は小学校の先生、これが恋なのだと気付いた瞬間が僕は人とは違うのだと気付いた瞬間でもあった。 何も言えずただ見つめるだけの苦しい恋を繰り返す、そんな僕の得意技が妄想になってしまうのも仕方ない事だと思う。 ノーベル賞に妄想部門があれば受賞できる自信があるくらいには妄想ばかりしている。 くだらないことを考えている自分に苦笑を漏らし、隣に視線を向けるとその人の姿はいつの間にか消えていた。 声だけでも聞いてみたかったなぁ。
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