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●入学式の朝
いつもより力強いあくしゅで彼女たちは家を出た。
黄色い帽子の史織ちゃん。
もう低学年の赤い帽子じゃなくなった。帽子の下のお顔は真っ白な肌で、
それは日の下でキラキラと光っていた。
垂れた眉とクリンとした黒い瞳に、血のような真っ赤な唇。
容姿だけ見てみると、子供には見えない。
それと対照的に、小さな指先が子供らしくせわしなく動き続ける。
史織はずんずんと、ずんずんと。今、幼稚園を通り過ぎた辺り。
史織ちゃんの手のひらが、ちょっぴり緩んだ。
足取りもウロウロとし始めて、駅前で手のひらがスルリと抜け出す。
「とっこちゃん!」
呼ばれた先には大人の女性が立っていた。
一見母親のように見えるが、少し目元が違っている。
長い髪を後ろでまとめて、タイトな服装をしている。
瞳は暗めのベージュで、薄く化粧を施している。
もう一度とっこちゃん、と呼ばれると、その女性時子は、
諦めたようにして振り向いた。
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