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「しろよ。絶対後悔するから」
悠真くんは、大まじめだった。
下書きが終わって、いよいよ色を乗せていく。何となく気になって早朝や昼休みに絵を見に行ったけれど、その時には悠真くんの姿はなかった。それから、部活の時間にも。私一人で絵を描いている時にだけ、悠真くんは現れる。ちょうど太陽が金色に輝き、赤く色を変えて、沈んでいくまでの間だ。少しずつ夏は近づいて、最終下校が六時から六時半に変わった。自然と、悠真くんといられる時間も長くなる。絵も進んだ。下地の色塗りは大体終わって、今度は悠真くんが持つ色、肌の色や髪の色なんかを重ねていく。
「あ、まぶしいね」
日差しの加減だろうか、悠真くんの肌の色を見極められなくて、カーテンを閉めに行った。
「どうしたの」
「うん。何か見えにくくて」
戻って、確かめてみたものの、あまり効果はなかった。何となくだけど、悠真くんの形や色が把握しづらくなっていた。
その時はそれくらいしか思わなかったのだけど、何日か経つと、じわじわと実感として分かっていった。
「悠真くん、もしかして」
「え、何」
「……いや、あ、いいや」
「何よ」
「悠真くんって、鼻毛ないんだね」
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