森緒くんは困惑している

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「それで、夏菜子とはどこまで?」  夏夜(かや)さんは、別のテーブルに座って頬杖をつきながらチューっとジュースを吸い上げている笹野さんにチラリと目をやり、にこりともせず僕に向かって言った。  顔のパーツ一つ一つを見れば、母娘だけあって笹野さんと似ている部分もある。それなのに受ける印象は不思議なほど違う。  センターで分けた艶のある長い黒髪から覗く夏夜さんの目は、目尻に向かいつり上がっていて、猫目というよりは狐目に近い。出会ってから一度も笑っていないせいかもしれないけど、大きな黒目がちな目からは感情読み取れない。造りは美人なのに、人ならざるものなのではと疑ってしまうような禍々しさがある。  それにしても、会って五分でこんな質問が飛んでくるとは思わなかった。気まずいなんてもんじゃないけど、下手に誤魔化すよりも真面目に答えておく方が得策だろうな。 「質問が夏菜子さんとの交際の程度についてであればですが、僕はまだ高校生なので、責任が取れないことをするつもりはないです。夏菜子さんを傷つけるようなことはしたくないですから」  別にやましいことがあるわけじゃない。笹野さんと僕の関係は、まさに高校生に相応しいレベルだろう。笹野さんを揶揄うために恋愛成熟度を上げようと言うことはあるけど、あの人()のこともあるし、下手に欲張って笹野さんを危険に晒すよりは、今の関係でいる方がずっといいと思っている。 「そう。良かった。あの子には、私のように害虫と結婚するような失敗はして欲しくないの。だから、悪い虫だったら早く駆除しないといけないと思っていたのだけど、あなたに害はなさそうね」  害虫って会長のことだよな。凄い言い方だな。というか、僕も虫なのか。害虫ではないと判断されただけで。  
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