森緒くんは困惑している

4/11
前へ
/36ページ
次へ
 僕は夏夜さんのずっと向こう側に見える笹野さんを見ながら、ごくりと唾を呑んだ。  笹野さんは、養子ということなんだろうか。いやでも、他人にしては似すぎている気がする。 「それは一体どういう……。夏菜子さんは、会長と夏夜さんの娘ではないということなんですか」  テーブルは離れているし、笹野さんが訊き耳を立てているとは思わないけど、一応僕は声を潜めた。 「血のつながりがないわけじゃないわ。法的にも娘よ。ただ、コウノトリが運んで来ただけ。それが真実なの。これ以上、あなたに説明する気はないわ。とにかく、あの子のために、おかしなことは吹き込まないで」  いいわね、と言って夏夜さんは立ち上がった。 「ちょっと待ってください」 「家庭を壊されたくなかったら、私の邪魔はしないでちょうだい。あなたのお母様とあの人の関係は知っているのよ。いつでも訴えることができる程度には」  母と会長の関係に気づいていたのか。  訴えられて父を巻き込むことも躊躇われるけど、それ以上に母が笹野さんを恨んだりすると困る。何をするかわからない人なんだから。  僕が口を閉じたのを見て、夏夜さんは一瞬口元に笑みを浮かべ、笹野さんの方へと歩いて行った。勝ちを確信した笑いだった。 「夏菜子、私は帰るわ」  はーい、と呑気に返事をする笹野さんの声を聞きながら、僕は椅子の背もたれにぐったりと体を預けた。    
/36ページ

最初のコメントを投稿しよう!

65人が本棚に入れています
本棚に追加