65人が本棚に入れています
本棚に追加
僕は夏夜さんのずっと向こう側に見える笹野さんを見ながら、ごくりと唾を呑んだ。
笹野さんは、養子ということなんだろうか。いやでも、他人にしては似すぎている気がする。
「それは一体どういう……。夏菜子さんは、会長と夏夜さんの娘ではないということなんですか」
テーブルは離れているし、笹野さんが訊き耳を立てているとは思わないけど、一応僕は声を潜めた。
「血のつながりがないわけじゃないわ。法的にも娘よ。ただ、コウノトリが運んで来ただけ。それが真実なの。これ以上、あなたに説明する気はないわ。とにかく、あの子のために、おかしなことは吹き込まないで」
いいわね、と言って夏夜さんは立ち上がった。
「ちょっと待ってください」
「家庭を壊されたくなかったら、私の邪魔はしないでちょうだい。あなたのお母様とあの人の関係は知っているのよ。いつでも訴えることができる程度には」
母と会長の関係に気づいていたのか。
訴えられて父を巻き込むことも躊躇われるけど、それ以上に母が笹野さんを恨んだりすると困る。何をするかわからない人なんだから。
僕が口を閉じたのを見て、夏夜さんは一瞬口元に笑みを浮かべ、笹野さんの方へと歩いて行った。勝ちを確信した笑いだった。
「夏菜子、私は帰るわ」
はーい、と呑気に返事をする笹野さんの声を聞きながら、僕は椅子の背もたれにぐったりと体を預けた。
最初のコメントを投稿しよう!