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「脅されわけじゃないよ。ただ、言わないと帰れなさそうな雰囲気だっただけで」
「何を言わされたの?」
「笹野さんが怒らないでくれるなら言うけどさ、多分怒るよ」
笹野さんは、口をもにゅもにゅ動かしながら考え込んでいて、なかなか可愛い。
「わかった。怒らないから言って」
「ありがとう。実はさ、恋愛成熟度についての確認をされていたんだよ」
「確認!」
思惑通り笹野さんはすっかり真顔になった。
「そう。気が進まなかったけど、笹野さんのお母さんが怖かったからさ、全部話しちゃったんだよ。ごめん。どういうことを訊かれたか、気になるよね? 一つずつ話そうか? 笹野さんと僕がこれまでどんなことをしたか、結構細かく話したんだけどさ」
「細かく」
しめしめ。順調に能面化している。
「いいの! まったく気になっていないから! 大丈夫」
ほんのりピンクの能面になっていた笹野さんは、足を動かしかけたと思ったら、急にブンブンと音がしそうなくらい頭を振りだした。
「本当に? 笹野さんのことだから、気になるかなと思ったんだけど。たとえば僕の部屋のベッドに座って、笹野さんと練習した時のこととかを話したんだ」
「ダメ! ダメダメダメ! またカチャカチャやり始めちゃった」
焦った顔をして、笹野さんは椅子ごと後ろに下がる。
「カチャカチャって何」
「だから、また森緒くんがベルトを外しかけているの! こんなところで、これ以上見せちゃダメ!」
笹野さんは、両手で顔を隠しながら大きな声で言った。
「ちょっと! 笹野さん、声が大きいって。僕が捕まる前にここを出るよ!」
僕は周囲の冷たい視線を浴びながら、また社会見学中になってしまったらしい笹野さんの手を掴み、カフェを飛び出した。
夏夜さんが先に支払いを済ませておいてくれて助かった。このままだと、そのうち変質者と間違えられて本当に捕まりそうだ。本当になんとかしないと。
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