65人が本棚に入れています
本棚に追加
「僕は大真面目だよ。見えないものの退治をしなきゃいけないんだからさ。で、見せたがりの僕は、今どこで何をしているのか、しっかり教えてくれる?」
「今ね、森緒くんの部屋の前にいるみたいなの。ガチャガチャ扉のノブが動いている」
彼女の頭の中の笹野さんは僕の部屋の中にいるらしい。現実の笹野さんはというと、声を潜めて実況してくれている。臨場感たっぷりだ。
「……きた! 森緒くんが入ってきちゃった。どうしよう」
「完全にホラー映画だね。斧を持っている僕じゃなくて良かったよ。とりあえず笹野さんはその部屋から出なよ」
「私が部屋から出るの?」
「攻撃してくるわけじゃないんでしょ? 見せたがりの僕は」
しない。見せたいだけだから、と笹野さんは大真面目な顔で頷いた。まったくもって、酷い言われようだ。
「じゃあ、とにかく早く家から出て」
「わかった。やってみる」
頭の中で走っているのか、笹野さんのつま先がパタパタ動いている。
足が動きを止めたと思ったら、笹野さんは大きく息を吐いた。
「出られた! ただ、きなこも着いてきちゃった」
「なんで」
「きなこも外に出てみたかったとか? 何回も見せられちゃったから、きなこは退屈だったのかも。初めからあくびをしていたし」
やれやれ。笹野さんの妄想は自由だ。
「まあいいや。きなこも連れてきて。僕は?」
「ヒタヒタ着いてきている」
「変質者かゾンビみたいだね。とりあえずこの公園まで案内してあげて」
「ここに?」
「そう、ここに。早送りで頼むよ。寒いから」
笹野さんの足がまた忙しなく動き出した。
最初のコメントを投稿しよう!