森緒くんは困惑している

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「僕は大真面目だよ。見えないものの退治をしなきゃいけないんだからさ。で、見せたがりの僕は、今どこで何をしているのか、しっかり教えてくれる?」 「今ね、森緒くんの部屋の前にいるみたいなの。ガチャガチャ扉のノブが動いている」  彼女の頭の中の笹野さんは僕の部屋の中にいるらしい。現実の笹野さんはというと、声を潜めて実況してくれている。臨場感たっぷりだ。 「……きた! 森緒くんが入ってきちゃった。どうしよう」 「完全にホラー映画だね。斧を持っている僕じゃなくて良かったよ。とりあえず笹野さんはその部屋から出なよ」 「私が部屋から出るの?」 「攻撃してくるわけじゃないんでしょ? 見せたがりの僕は」    しない。見せたいだけだから、と笹野さんは大真面目な顔で頷いた。まったくもって、酷い言われようだ。 「じゃあ、とにかく早く家から出て」 「わかった。やってみる」  頭の中で走っているのか、笹野さんのつま先がパタパタ動いている。  足が動きを止めたと思ったら、笹野さんは大きく息を吐いた。 「出られた! ただ、きなこも着いてきちゃった」 「なんで」 「きなこも外に出てみたかったとか? 何回も見せられちゃったから、きなこは退屈だったのかも。初めからあくびをしていたし」  やれやれ。笹野さんの妄想は自由だ。 「まあいいや。きなこも連れてきて。僕は?」 「ヒタヒタ着いてきている」 「変質者かゾンビみたいだね。とりあえずこの公園まで案内してあげて」 「ここに?」 「そう、ここに。早送りで頼むよ。寒いから」  笹野さんの足がまた忙しなく動き出した。
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