65人が本棚に入れています
本棚に追加
『森緒くん、大丈夫?』
ゴホゴホと咳込んだ僕に、笹野さんは心配そうに声を掛けてくれる。電話越しではあるけど、数日ぶりに聞いた笹野さんの声に気が緩み、思わず泣きそうになってしまった。
きっと熱のせいだ。
『どうかな。こんなに熱を出したのは久しぶりだよ。やっと少し下がってきたから、明後日くらいには学校に行けると思う。笹野さんは、風邪ひいていないの?』
『とっても元気。森緒くんがコートとマフラーを貸してくれたからかもしれない。ありがとう』
『笹野さんが熱を出さなくて良かったよ』
見せたがりの僕ときなこを、笹野さんが頭の中の公園で見失ったあの日の夜から、僕は高熱を出して寝込んでしまっていた。
寝込んでいる間、熱のせいか同じ夢ばかり見ていた。
僕の部屋の窓の外に、コウノトリが赤ちゃんを置いていってしまう夢だ。
ふにゃふにゃ泣いている赤ちゃんを抱え、僕はお母さん探しの旅に出掛ける。
色んな家のドアを叩いた。でも、どこの母親もうちの子じゃないと言い、僕と赤ちゃんを追い返す。
何度も何度も拒絶され、クタクタになった僕の前に現れたのは夏夜さんだった。とても恐ろしい人に見えるのに、赤ちゃんは泣くのを止めてキャッキャと笑い始める。
ああ、やっとお母さんが見つかったんだと安心した僕に、夏夜さんは冷たい視線を向け、「私は夏菜子を産んでいないの」と言って立ち去ってしまった。
泣きじゃくる赤ちゃんを腕に抱えた僕は、じゃあ誰がこの子を産んだのかと途方に暮れながら目を覚ます。
微睡み夢を見ては起きてを繰り返しながら、僕はずっと考え続けていた。
血の繋がりはあって法的にも娘である。夏夜さんの残したその言葉から、僕はひとつの可能性にたどり着いた。――おそらく笹野さんは代理母出産で生まれたんだと。
最初のコメントを投稿しよう!