同じものを見なければ

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「笹野さん、待って」  呼び止められてびっくりした。森緒くんに学校で話しかけられることなんて普段ないから。  校舎を繋ぐ渡り廊下は、外にあるせいで風がピューピュー吹きつけて寒い。小走りに駆け抜けようとしていたのに、よりによって反対側からやってきた森緒くんに捕まってしまうなんて、最悪の事態だ。  ダメダメダメ。別のことを考えないと、アレが出てきちゃうんだった。 「あのさ、今日僕の家に来ない? あの人、出掛けていて家にいないから」  森緒くんはいつも森緒くんのお母さんのことをあの人と呼ぶ。まるで自分と線引きをするみたいに。でもそうしたくなる気持ちはわかる。森緒くんの注意を引きたいがためだけに、彼のお母さんはとんでもない嘘をつきまくったり、自殺の真似ごとをしたりするちょっと危険な人だから。  そんなわけで、森緒くんはいつかお母さんが私を傷つけようとするんじゃないかと恐れている。私は森緒くんのお母さんを返り討ちにしてやるつもりなんだから、そんなに心配しなくてもいいのに。むしろ私がやりすぎて、森緒くんのお母さんをズタボロにしちゃうんじゃないか心配ではあるけど。
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