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もし笹野さんが出生の秘密を知り、深い闇を抱えてしまうことになったら、僕は恐ろしいと思うだろうか。母から遠ざかってしまっている父のように、手に負えず、逃げ出したいと思うようになるんだろうか。
コウノトリの真実。僕らの間にできてしまった秘密。僕は、小さな不安を感じている。
「笹野さん、怖いものってある?」
笹野さんから離れて口にした僕を、彼女はとろんとした目で見ている。
「怖いもの?」
「うん。笹野さんが手に負えないくらい怖いもの」
彼女はとろんを追い払うみたいに、頭をぶるんぶるんと振った。
「森緒くん、何か怖いの? お母さん?」
「いや、ただのたとえ話だよ」
「どうだろ。あったとしても、私の怖いものはこの前みたいに森緒くんがなんとかしてくれちゃうと思うし、森緒くんが怖いものは、私が倒しちゃうから大丈夫なんじゃないかなと思うけど。倒そうか? やっつけちゃうものある?」
キラキラを超えて、ギラギラさせた目で言う笹野さんを僕は抱きしめた。腕の中で、笹野さんはヒギャっと変な声をあげた。
「笹野さんのそういうところ、すごく好きだよ」
「毒がいいかな。それとも、もっとすごいやつとか! 私、ワクワクしてきちゃった」
不安になんて感じなくてもいいのかもしれない。笹野さんが見てしまう闇があるのなら、僕も一緒に覗けばいいんだから。
「毒は使ったらダメだよ。僕を守る為の毒だからさ」
「そっか。そういえばそうだった。森緒くんが共犯者を辞めたいって言いだしたとき用にとっておかなきゃいけないもんね」
「そう。僕専用」
ふふふっと笹野さんが笑う。可愛い人だなと思った。
僕は今日も守られている。笹野さんと彼女の持つ毒に。
Fin 僕たちは恋の社会見学をしている
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