同じものを見なければ

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「ダメ! 行けない。無理」  森緒くんの涼やかな顔が僅かに崩れた。 「笹野さん、僕のことを避けている? 一昨日、公園にも来てくれなかったしさ。何かあったの?」  ダメダメダメ。出て来ないで。私の頭の中の森緒くん! 今は本物と話しているんだから出てきちゃダメ。 「だって寒いでしょ。こんな寒い時に公園に行くのは自殺行為だと思う。森緒くんが氷漬けになった姿は鑑賞してみたい気もするけど、それなら完璧な冷凍技術でやってもらわないと森緒くんの良さが台無しになっちゃうし、私自身は氷漬けにはなりたくないからダメなの」  私はできる限りの早口で喋ることにした。息継ぎもしなかったから、途中で窒息するかと思ったし、まるで2倍速で見る動画の音声みたいになっちゃったけど、とりあえず舌は噛まなかった。 「だから、僕の家に来ないかって訊いているんだよ。きなこが寒がりだからさ、床暖房をつけっぱなしにしているし暖かいよ。で、台無しになる僕の良さって、どのあたりが笹野さんは良いと思っているのかな。つまりそれって、笹野さんの僕の好きな部分ってことだよね。嬉しいよ。どこが好きなのか訊かせて欲しい」  森緒くんは活舌の良さを強調するようにはっきりとした早口で返してきた。なんか早口言葉勝負に負けた気分で悔しい。 「それは……」  悔しがっている私のことなんておかまいなしに、頭の中で私の森緒くんは制服のズボンに通してあるベルトをカチャカチャ外しはじめていた。  森緒くんの家で飼っている猫のきなこが、ベルトを外し終え、ジッパーを下ろし始めた森緒くんの手元をベッドの上からジッと見つめている。見ているなら止めてくれたらいいのに、ふわぁと尖った牙を見せながら大きく欠伸をするだけだ。
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