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「笹野さん? 大丈夫?」
ジッパーを下ろし終えた森緒くんは、ズボンとパンツを一気に引き下ろし、恍惚とした表情で言った。
――さあ、見て! これが僕の生殖器だよ
「ちょっと! 笹野さん、こっちに来て!」
私は焦った顔をした森緒くんに引きずられるように渡り廊下を歩き、人気のない生物準備室に連れ込まれていた。
「あのさ、僕はそんなことしていないし、するつもりもないから」
「私は何も言っていないけど」
「笹野さんはさ、時々頭の中の妄想が口に出ちゃっていることがあるから気をつけた方がいいよ。それにしても何なのそれ。これが僕の生殖器だよって。僕はそんなことしないからね」
そう。本物の森緒くんはそんなことは言っていないし、当然ながらやってもいない。ただ、コウノトリさんが赤ちゃんを運んでくるのは迷信だと言って、哺乳類の生殖行為が雄と雌の生殖器を交わらせるものなんだと教えてくれただけだ。
にわかには信じがたくて、雄の生殖器がどこなのかとこっそり訊いた私に、外では見せられないから家で見せ合おうかと冗談っぽく言い、森緒くんは家に連れて行った。それなのに、彼はいつも通りキスをして、お菓子とお茶でもてなしてくれただけだった。
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