同じものを見なければ

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「気になって調べちゃったの」 「何を?」 「生殖器」 「え? 何を?」  この距離で聞こえないはずなんてないのに、森緒くんは訊き返してきた。 「だから、人間の雄の生殖器だってば」  すごい真顔をしたかと思うと、彼の眉間はしわしわになっていく。あーあ、爽やさがなくなっちゃっているよ、森緒くん。 「えっと……、笹野さんはとうとうコウノトリが赤ちゃんを運んでくるのが迷信だと理解したってことでいい?」 「ううん。そこはまだ疑っているの。雌の生殖器については調べなかったし、生殖器の交わらせ方もわからないままだから」 「じゃあ、雄のそういうのを見ただけ?」 「そう。どちらかというとめしべだった」 「めしべ。まあ……たしかにどちらかというと見た目はそうかもしれないような、そうでもないような。……うん。まあいいや。それで?」  森緒くんは、難しい顔をしたまま一応の同意をしてくれたようだ。 「正直、これまで人間の表面の部分にはあまり興味がなくて、内臓とか骨が描かれた図しか真剣に見てこなかったの。私はほら、もっと内側にある血や骨が好きだから」  知っていると森緒くんは頷いた。 「それなら、なんで見たの」 「森緒くんが見せてくれなかったから、気になってしまいまして」  もじもじしながら言ったら、彼は鳩が豆鉄砲を食ったような顔をした。 「えっと……その言い方だと、笹野さんは本当に僕に見せて欲しかったってことになるんだけど、僕はそう解釈すればいいの?」 「だって、未知の情報を得ようと意気込んで社会見学に行ったのに、大事な部分は何も見せて貰えず、お茶やお菓子だけ出されて帰って来たら、なんとなく肩透かしを食らった気分になるでしょ」 「社会見学でそんなに危険なものを見せつけられた経験は僕にはないけどね。それに僕が行った社会見学では、実際におやつが用意されていたよ」 「これはただのたとえ話なの」  森緒くんは、「ふーん」と相槌を打った。ふーんの言い方からして、まったく納得いっていないことが伝わってくる。
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