同じものを見なければ

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「わかってないってどういうこと?」 「私の苦しさを森緒くんにもちゃんとわかって欲しい」 「話なら理解したよ」 「ダメ。森緒くんももっと真剣に考えてみて。私に生殖器を見せつけられるところを」  森緒くんの眉がだんだん八の字に歪んでいく。 「……笹野さんが僕に生殖器を見せつけているところを想像しながら、放課後まで過ごせっていうの。実際に見たこともないのに?」 「社会見学は同じバスに乗って、同じルートを辿るべきだと思うの。だから、森緒くんも検索してみたらいいんじゃないかな」 「ちょっと気になっていたんだけどさ、社会見学に喩えたのって、社会の窓と掛かっていたりする?」  森緒くんはつかぬ事をお伺いしますがというような口調で訊いた。 「社会の窓? 何それ」 「ああ、知らないのか。まあ当然だよね。笹野さんって、よく無意識のくせに近いところに落として来るから、本当は全部わかっているんじゃないかと思うことがあるんだよね」 「ねえ、どういうこと? 全然話がわからないんだけど。理科の窓とか、国語の窓とかもあるの? 窓の外には何があるの?」 「窓の外には人々の冷ややかな目があるかな。元々は理科の窓もあったらしいけど、気にしないで。所詮死語だからね」  どうやら森緒くんはそれ以上教えてくれる気がないらしい。社会見学のバスからいきなり下ろすのは本当にやめて欲しい。また調べることができてしまった。 「話は戻るけど、社会見学で同じルートを辿ったとしても、人によって感想はまちまちだと思うんだけどな。それに、残念なことに僕のスマホはセーフサーチが掛かっているから、笹野さんが見てほしいような生々しいやつは見られないんだよね」 「人体模型の内部構造付きのやつだから、生々しくなんてないと思うんだけど」  森緒くんのことだから、どうせ私がプラスチネーション(合成樹脂)加工された人体標本でも見たと思っていたんだろう。 「ああ、人体模型を見たんだ。つまり笹野さんの頭の中の僕は、模型的なアレを見せつけているってこと?」 「そう」
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