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「それでは失礼いたします」
幸いなことに、その夫人が去った後、誰も私に話かけてくることはなかった。
だがやはり、
「ディオクロイス様! 一刻も早くロミナの死の真相を突き止めてくださいませ!」
ジュリアスの葬式が終了したと同時に、カストピール夫人が物凄い剣幕で私に詰め寄ってきた。
「や、やめないかお前。このような場で……」
すかさず止めに入るカストピール伯爵。
だが、夫人は納得しない。
「ディオクロイス様!」
と、そこにまたしても関係者登場。
メガートン夫人だ。
その後ろから男爵がとことこついて来る。
「どうか! どうかジュリアスの死の真相を調べてくださいな!」
涙を振りまきながら、メガートン夫人は私に迫る。
「あの子が自殺なんて考えられません! きっと誰かがあの子の部屋に火を付けたに決まってますわ!」
そう言ってメガートン夫人はカストピール夫人を睨みつけた。
「な、何をおっしゃいますの! まさか私を疑っているんじゃないでしょうね!」
カストピール夫人は顔を真っ赤にして怒鳴る。
「貴女は私のジュリアスを殺人者だと疑ってらしてましたわ。そのジュリアスが突然死んでしまった。原因不明の不審火で! どう考えてもあなた方の仕業ですわ!」
「な、なんて口の利き方を! 身の程をわきまえなさいな!」
「も、もうよさないか」
それまでおどおどしながら黙って見ていたメガートン男爵も、さすがに自分の妻を止めに入る。
カストピール伯爵も、夫人を宥めて距離を取らせた。
メガートン夫人は顔を覆ってその場に崩れ落ちる。
酷い修羅場だ。
「ジュリアスが……ジュリアスがまさか死んでしまうだなんて……」
肩を震わせ、声を引きつらせながら言葉を漏らすメガートン夫人。
既に死因は自殺であると囁かれていたロミナ嬢と同じく、ジュリアスの死についても噂が立ってしまっていた。
"ジュリアスは愛する恋人を亡くしたショックで後追い自殺をした"
この噂が街中を埋め尽くしていた。
自ら命を投げ出すことは重罪。
本来ならば、カストピール家もメガートン家も、評判は地に落ちる。
だが、今回は少し違う。
恋人のいない世界に未練などない。
その決意によって命を絶ったジュリアスは、きっと矢面に立たされることはないだろう。
"死ぬ程までに一人の女性を愛することができた、恋人思いの素晴らしい男性"
そんな声もちらほらと耳にした。
だが、ロミナはどうだ。
未だに詳細不明。
ただの自殺説が独り歩きして広まってしまっている。
ジュリアスの自殺の原因を作った罪深き娘として見られてしまっている。
カストピール夫妻は気が気でないのだろう。
「ご提案があります」
メガートン家から事情聴取をする必要がある。
ジュリアス・メガートンはともかく、ロミナ・カストピールは、何者かに殺された可能性が高いからだ。
そう考えるきっかけとなったのは、一昨日、ひょっこりジュリアスが姿を現した日に得た情報が関与している。
「これより事件解決までの間、カストピール伯爵家、そしてメガートン男爵家は、接触を控えていただきます。理由はお分かりですね?」
できるだけ口元に笑みを浮かべてそう言うと、その場にいる全員がごくりと唾を飲み込んだ。
「私は、事件解決をお約束致しました。どうか、それまでご辛抱を」
私の提案に、四人とも素直に納得した。
さて、ジュリアスが生きていた頃の話に戻りましょう。
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