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客間へ通された私たちは、荘厳な長いテーブルに案内され、腰を下ろすよう促された。
早速お洒落なカップに入れられた紅茶が目の前に運ばれてきて、美味しそうに湯気を揺らがせている。
香りも大変良い。
私は遠慮なくその紅茶に口を付けたが、カストピール夫妻はそうしなかった。
大方、毒を警戒しているのだろう。
メガートン夫人は毅然とした態度で紅茶をすすり、男爵は尚も額の汗を拭って挙動不審な態度を取っている。
私たちは何も言葉を発することなく、一度部屋に戻ったジュリアスを待った。
しばらくして、正装に身を包んだジュリアスが客間にやって来た。
「お待たせして申し訳ございません」
そう言って一礼し、席に着く。
ジュリアスの左手の薬指には、サファイアが埋め込まれた指輪がはめられていた。
それは、倒れていたロミナ嬢の左手の薬指にはめられていた指輪と、酷似したデザインであった。
ジュリアスの雰囲気から、進行は任せて問題ないだろうと私は考え、カストピール夫妻からの縋るような視線に知らん顔して紅茶を堪能し続けた。
「まず初めに確認させていただきたい。ロミナが……ロミナ嬢が亡くなられたと言うのは、本当なのですか」
神妙な顔で、重苦しい声色で、デーブルの複雑な模様を見つめながら、ジュリアスはカストピール伯爵にそう尋ねた。
「ああ、本当だ。部屋の中で毒の小瓶を握りしめて倒れているのが見つかった」
「いつです?」
「昨日だ」
「き、昨日……」
険しい顔で、カストピール伯爵が静かに答え、ジュリアスがそれに驚く。
私はちらりとカストピール夫人に目を向ける。
てっきり、ジュリアスの質問に対して白々しいだのなんだの文句を言うのではないかと思いきや、予想に反して、彼女は大人しくジュリアスを見つめているだけだった。
「……そうですか」
テーブルに隠れて見えはしないが、ジュリアスが膝の上で拳を握りしめたのが感じ取れた。
表情を見せないように俯き、肩を震わせるジュリアス。
悲しみ、嘆いている。
まさにそんな印象だった。
そんなジュリアスの姿を見て、メガートン夫人はほろりと涙を流す。
すると、カストピール夫人が、申し訳なさそうに視線を落とした。
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