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「本当に……本当に、ロミナは死んでしまったのですね?」
「……ああ。信じられないだろうが、本当に死んでしまった。ポリュデウケス団の調査で証明された」
「……そうですか」
ジュリアスが私を一瞥する。
私は沈黙を持ってロミナ嬢の死を肯定した。
「こんなことになったのは……僕のせいかもしれません」
ジュリアスのその言葉に、皆が一斉に彼を見た。
「実は、僕たちは……駆け落ちを計画していたのです」
「な、なんですって!?」
驚きの反応を見せたのはカストピール夫人だけであった。
メガートン男爵が玄関先で、ジュリアスの失踪はロミナとの駆け落ちが理由であると話していたため、恐らくメガートン夫人も駆け落ちを予想していたのだろう。
カストピール伯爵はジュリアスの話がよく理解できていないような怪訝な表情をしていた。
私はカップを置いて、真剣に聞く姿勢を取った。
「ロミナに、死んだふりをするよう、持ち掛けたんです。仮死状態になる薬で、死んだと思わせて、結婚に反対してるご両親の手から逃れよう……って」
「そ、それならロミナはまだ!」
カストピール夫人は期待の目を私に向ける。
だが、私は首を横に振った。
夫人は再び絶望に打ちひしがれる。
この国の治安維持組織である"ポリュデウケス団"の鑑定は完璧だ。
仮死状態を見破れないわけがない。
死亡を理由に罪から逃れようと企んだ犯罪者たちを、今まで何人も瞬時に見破ってきた。
私の目ならともかく、彼らの技術は欺けない。
「12時間仮死状態になる薬を手に入れたと言っていました。それで死んだふりをして、タイミングを見て一緒に逃げ出そうと考えていたのです。まるで……」
「ロミオとジュリエットのように?」
呆れた声色で、カストピール夫人が言った。
ジュリアスが頷く。
「ポリュデウケス団が介入しているのなら、間違いありませんね。やはり止めるべきだった。危険な薬かもしれないとは思っていた。僕が、僕がもっとあの薬を警戒していれば、ロミナは死なずに済んだのに……」
ジュリアスがテーブルを叩きつけ、悔し気に唇を噛み締めた。
「では、ロミナは死ぬつもりはなくとも、やはり自ら毒を煽ったんだな」
力の抜けた声で、カストピール伯爵が言った。
「幸せな未来を夢見て自ら毒を飲んでしまうなんて……。なんて可哀想なロミナ様……」
メガートン夫人が口元を押さえながら大粒の涙を流してそう言った。
カストピール夫妻も、娘を思ってか目に涙を浮かべる。
私は空気を読まずにあることを聞いてみることにした。
「ですが、ロミナ嬢は毒にはお詳しいのではないのですか?」
私のその言葉に、ジュリアスとカストピール夫妻がびくりと肩を揺らした。
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