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カストピール夫妻は怯えた目を私に向ける。
「ロミナ嬢は、危険物の入った瓶を大量に保管してました。恐らくどれも毒でしょう」
「た、確かにロミナは毒を部屋に隠し持っていましたけど……」
(やっぱり知っていたのね)
カストピール伯爵の返しに、私は無表情で頷いた。
「だ、だけど、コレクションしていただけで、詳しいかどうかは分からない」
カストピール伯爵に続き、ジュリアスが言う。
(ふうーん。ジュリアスも知っていたのね)
「でも、どっちにしろ飲むんだったらもっと正確な情報を得てから飲むのではありません?」
「……つまり、誰かに飲まされたと?」
ジュリアスが怪訝な顔で言った。
「それは何とも言えません。もしくは、賭けに出るほど待てない状況だった、と言う可能性もありますし」
「それほど結婚を急いでいたということですか?」
メガートン夫人が問う。
「もしかしたら、危険と知っていて飲んだという可能性も捨てられません」
「それは、最悪死んでも構わないと、そう思って薬を飲んだってことですか」
「そんなはずはない!」
ジュリアスのため息交じりの言葉に、突然カストピール伯爵が大声で怒鳴った。
静まり返る客間。
皆、怒鳴り声を上げたカストピール伯爵を凝視している。
「……あくまで、まだまだ考えられる可能性が、多く存在するということです」
私は冷静な口調で言った。
「いえ、違うのです。やはり、ロミナが自分の命を危険に晒す訳がございません」
カストピール伯爵は拳を握りしめて言う。
「そうまでして、駆け落ちをする必要は、ロミナにはなかったはずなのです」
「な! そ、それはどういうことですか! まさか、ロミナが俺を愛していなかったとでも!?」
カストピール伯爵の言葉に、ジュリアスが焦るような表情で声を荒らげた。
「お、落ち着かんか」
それを、メガートン男爵が宥める。
「実はな、ジュリアス。私は、つい最近、君との婚約を許可したんだよ」
そう言ったカストピール伯爵に、皆の驚きの視線が集められた。
カストピール夫人ももちろんその内の一人で、目を見開き、顎を外したまま固まっていた。
「こ、婚約を、認めていた? い、いつのことよ」
伯爵の言葉に、カストピール夫人が一番驚いている。
「一週間ほど前だ。ロミナに、その……強く迫られてな。結局あの子の気迫に負けてしまったんだよ」
両目を瞑り、眉間に皺を寄せた状態で苦々しく言葉を漏らすカストピール伯爵。
「君は断固反対だったからな。もう私から許しを出してしまったことはなかなか言えなかった。だから時間をかけて君を説得したと言う訳だ」
伯爵が重大な事実を黙っていたことにショックを受けているのか、そのまま呆然と一点を見つめていた。
「だから私は、ロミナが命を懸けるほど痺れを切らしていたとは思えないんだよ」
カストピール伯爵はそこまで言って口を噤んだ。
またも訪れる沈黙。居心地が悪い。
でも、話題提供を強要されるよりはずっといい。
「分かったわ」
不意に沈黙を破ったのはカストピール夫人だった。
何やら覚醒でもしたかのような怪しげな瞳だ。
「折角婚約の許しを得たのに死んでしまったのは、ジュリアスが何かロミナの心を傷付けるようなことをしでかしたからに違いないわ」
そして、大真面目な顔でそんなことを言った。
「はあ?」
私とカストピール夫人以外の全員がそんな顔をしたが、唯一声に出してしまったのはジュリアスだった。
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