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優雅な演奏も、軽快な皆のステップもぴたりと止まる。
「奥様! 旦那様! お嬢様が!」
すぐ後に聞こえてきたのは、取り乱した侍女の声だった。
吹き抜けになっている二階のギャラリーから、声の主である侍女が見下ろして、その青ざめた顔を現す。
「どうした、騒々しい! 一体何事だ!」
壮大な舞踏会を中断した侍女に向かって、厳格な表情で怒鳴り声を上げたカストピール伯爵。
「だ、旦那様! 大変でございます! お嬢様が……ロミナお嬢様が! お、お、お部屋で……」
侍女はつっかえながらも自分が見たことを必死に伝えようとしているが、どうにもパニックになりすぎていて口が回らない。
「落ち着きなさい! 一体ロミナがどうしたと言うの!」
そう言うカストピール夫人の口調は心配とはかけ離れており、まるで叱りつけているよう。
「全く、いつものことでしょうに……」
続けてぼそりと呟かれたそれは、恐らく私にしか聞こえていない。
「済まない。どうかパーティーを続けてくれ」
静まり返った場を取り持つようにしてカストピール伯爵はホールに声を響かせる。
控えめな音から始められた演奏が、一時緊迫した舞踏会の雰囲気を和らげた。
「ディオクロイス様、一度この場を失礼します」
あわあわと話の進まない侍女の元に、カストピール伯爵と夫人は急いで二階へと駆けて行った。
皆、ダンスやお喋りを再開しつつ、意識は伯爵達へと向けている。
「何だって!?」
そんなお決まりな台詞が、またもホールの賑わいを中断させる。
「なんて事なの!」
カストピール伯爵に続いて声を上げた夫人は、侍女と伯爵を置いてどこかへ駆けていった。
それを追おうとした伯爵が、何かを思い出したようにハッとなり、ギャラリーの手すりに手をかけて身を乗り出す。
「ディオクロイス様! どうかこちらへ! ご一緒していただけませんか!」
焦燥に満ちた顔を一階のホールに覗かせ、終始伯爵達の様子を窺っていた私に声をかけてきた。
舞踏会はもちろん中止。
私は注目を一身に浴びながら、カストピール伯爵の元へと足を運んだ。
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