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ロミナ嬢の自室
カストピール伯爵に連れられ、館の二階の奥へ私はやって来た。
長い廊下の突き当りの部屋は開け放たれており、その前では初老の執事が青ざめた顔をしながら、深刻な顔をして額に汗を滲ませていた。
「だ、旦那様……申し訳ございません。奥様を引き止められず……」
深々と執事は頭を下げて、ちらりと部屋の中を見る。
その直後、悲痛な叫び声が私の耳に届いた。
それはカストピール夫人のものだった。
部屋の中は女性らしい暖かい色合いで統一されていて、ベッドの脇にはいくつもの人形が飾られていた。
この可愛らしくて広い一室は、カストピール伯爵家の令嬢、ロミナ嬢の自室であることが、一目で理解できた。
「ロミナ! ああ、どうしてこんなことに! どうか目を開けてちょうだい! ロミナ!」
ピンクのネグリジェ姿で部屋の真ん中に横たわっている彼女は、恐らく、いや確実に、そのロミナ嬢であるのだろう。
「お、奥様……どうかこちらへ」
カストピール夫人は酷く取り乱している。
侍女たちはそんな彼女をどうにか落ち着かせようと、死体と化したロミナ嬢から引き離そうとする。
だが、目を見開いたままぴくりとも動かないロミナの体に縋りつくカストピール夫人は、尚も狂ったように泣き叫んでいる。
「ロミナ……一体何が悪かったと言うんだ……」
カストピール伯爵が遺憾の表情を浮かべ、ほぼ聞き取れないほどの声量で呟いた。
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