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カールのかかった金色の長い髪を絨毯の上に広げ、ロミナ嬢は左手で青い小瓶を握りしめたまま倒れている。
その薬指にはルビーの埋め込まれた指輪がはめられている。
紫色の唇を伝って、一筋の血が流れ出ている。
「なんてこと……。ロミナ様、遂に本当に自ら命を絶ってしまうなんて……」
いつの間にか侍女たちが部屋の入口に集まっており、ひそひそと囁き合っている。
(何故、自殺した流れになってるのかしら? 事故や他殺の可能性は一切なし?)
「お、おい。まだ、自殺と決まったわけではないだろう。もしかしたら、ロミナは誰かに……」
依然取り乱しているカストピール夫人の肩を抱き、伯爵はそう言うと、ちらりと私を見やった。
カストピール夫人もハッとなり、両手で覆っていた顔を素早く上げた。
「そ、そうよ……。そうだわ! その通りよ……。ちゃんと調べなければ……」
「ディオクロイス嬢、どうかロミナのために、真相を探ってはいただけないでしょうか」
カストピール伯爵は縋るような目で私にそう言ってきた。
(また面倒なことになってしまったわ……)
でも、この状況で断るなんてこと、
「お力になりましょう」
できるわけがない。
心の中ではため息を吐きながら、毅然とした態度を崩すことなく、私はカストピール伯爵の依頼に応じた。
「ディオクロイス様! 私には心当たりがございます!」
突然、カストピール夫人は詰め寄るようにして、怒りに満ちた酷い顔を私に向けて言った。
「あの男です! そうとしか考えられませんわ!」
「あの男?」
私は横たわるロミナの顔から視線を外し、詰め寄ってきた夫人の顔をまじまじと見つめた。
瞳からは未だ涙が流れており、その顔は蒼白としていて、怒りに震えているようにも、怯えているようにも見える。
カストピール伯爵の方を見てみれば、神妙な顔をしたまま唇をきつく引き結んでいた。
「ジュリアス・メガートンです! あの男がロミナを追い詰めたに違いありません!」
カストピール夫人は半狂乱になって叫び散らす。
その気迫に、その場にいたメイドたちの全員がドン引きしていた。
娘が目の前で死んでいるのだ。
取り乱すのは分からなくもない。
だけど、よりにもよって、真っ先に疑うのが娘の婚約者?
確かな証拠もないうちに?
何が何でも悪者、もしくは責めるべき者を見つけたいのかもしれない。
カストピール伯爵はロミナ嬢の傍らにしゃがみ込み、表情を険しくしながら頬を撫ぜるように軽く叩いている。
「少し、私にこの部屋を調べさせてはいただけませんか?」
私がそう言うとカストピール伯爵は立ち上がり、夫人や使用人たちを引きつれてロミナ嬢の部屋を後にした。
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