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一人残された私は、倒れているロミナ嬢の周りをぐるりと回る。
華奢な手の中にしっかりと握られている小瓶は、数滴を残して既に飲み干されている。
よく見るとその小瓶は水色と紺色のグラデーションで色づけられており、貝殻を模した装飾が小さく散りばめられていた。
倒れた衝撃によってか、その小瓶の口は歪に欠けていて、ヒビまで入ってしまっている。
次に部屋の中を見渡す。
本棚には流行りの恋愛小説がずらりと並んでいる。
赤やピンクが好みだったようで、家具や装飾はとても可愛らしい雰囲気でまとまっている。
クローゼットを開けると、その中には更に扉の付いた棚が設置されている。
その中の一つに、鍵穴の付いた扉があった。
その扉はすでに開けられていた。
(何が入っているのかしら)
鍵の開いたその小さな扉を開けてみれば、そこには大小様々な瓶が並べられていた。
液体が入れられているものもあれば、粉末で満たされているものもある。
そのいずれの瓶には、"毒"だとか、"危険"だとか、物騒な言葉が記されている。
「アイヴィー様」
突然、再びロミナ嬢の部屋の扉が開かれた。
「リチャード。来たのね」
私の名前を呼んだ黒いスーツの年配男性は、執事のリチャードだ。
禿げ頭に口ひげ。そして丸眼鏡。どこにでもいるような風貌の、ごく一般的な普通の執事だ。
「珍しいわね。貴方が私を迎えに来るなんて」
「私はいつでも貴女様のお側でお役立ちしたいと望んでおります。そしてそれが私の義務であります。それを無用と押し退けるのは、いつだって貴女様でございますよ」
リチャードは無表情にそう言って、小さくため息を吐いて見せた。
「カストピール伯爵が、メガートン男爵の邸宅へ事情を聞きに出かけるそうです。そこで、是非アイヴィーお嬢様にもついて来てほしいと申されております」
(今から?)
私はすぐそこに転がっているロミナ嬢の死体を一瞥した。
「リチャード。カストピールご夫妻を説得してきて」
「かしこまりました」
私に深々と頭を下げて光る頭頂部を見せてきたリチャードは、そのまま私を置いて足早に部屋を後にした。
私は自分が触れた棚の扉を元通りにして、少し遅れて玄関へと向かった。
既に騒ぎを聞きつけた役人達が屋敷に押しかけている。
重厚でかっちりとした騎士の格好の男達は、私に敬礼をし、ぞろぞろと二階へ上がっていった。
結局、ロミナ嬢は毒死と判断され、カストピール伯爵は膝から崩れ落ちて嘆いたのだった。
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