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メガートン邸
ロミナ嬢が亡くなった翌日。
カストピール伯爵と夫人、そして彼らの使用人と共に、私は馬車でメガートン邸へとやって来た。
馬車の中はどんよりしていて息が詰まりそうだった。
誰も何も言葉を発することはしなかった。
使用人は息まで止めているんじゃないかと思うほどに気配を消して縮こまっていた。
カストピール伯爵は昨日の今日でげっそりとやつれてしまっていて、夫人の方はずっとわなわなと怒りの表情で震えていた。
それでも、二人共権威を示すかのように厳かな姿勢を保とうとしている。
暗いオーラを放つカストピール家の馬車を見て、メガートン家の門番はうろたえながら館への道を開いた。
玄関まで誘導されると、突然扉が勢いよく開かれた。
館からは恰幅の良い男性が、顔に脂汗を滲ませて登場した。
「ご、ご機嫌麗しゅうございます。カストピール伯爵、カストピール夫人。本日はどのような……って、なんと!? ディ、ディオクロイス様!?」
それは、この館の主人であるメガートン男爵。
カストピール夫人から、ロミナ殺害の犯人だと疑われているジュリアスの父親だ。
「い、一体何があったというのでしょうか。何か事件でも? てっきり私は……」
あたふたした様子で顔色を窺うように私にそう言ったメガートン男爵。
「私はただの付き添いでございます。どうぞ、お気になさらずに」
そんな男爵が可愛そうに思えて、私は短く言葉を返すが、きっと何の救いにもならないだろう。
「さ、左様でございますか……。あ、あの、立ち話ではなんでしょう。どうぞ中へ」
「人殺しのいる家になど! 誰が入るものですか!」
メガートン男爵の言葉に、それまで黙っていたカストピール夫人が突然金切り声で怒鳴った。
「は、は? 人殺し?」
メガートン男爵は明らかに混乱している。
カストピール伯爵は、今にも頭に血が上りすぎて卒倒してしまいそうな夫人を何とか宥め、一歩前に出る。
「ジュリアスはどこかね? 会わせてもらおう」
これまた急に切り出したカストピール伯爵。
(順を追うということを知らないの?)
すると、屋敷の奥からまた人の気配が近づいてくる。
「あなた、何故早く中へお招きしないのです?」
次に登場したのはメガートン男爵夫人。
タレ目で、茶色のふわふわしたショートボブ。おっとりとした雰囲気を持っている。
使用人を通して、ここに私たちが訪れたことは既に伝わっていたのだろう。
「い、いや……そう思ったんだが……」
高級そうなハンカチで額の汗を拭う男爵。
「お会いできて光栄でございます、ディオクロイス様。そしてカストピール伯爵。奥様も」
にっこりと微笑み、メガートン夫人は礼儀正しくお辞儀をする。
それに対し、カストピール伯爵は会釈をしたが、夫人の方は鼻を鳴らしてそっぽを向いてしまった。
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