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ノアの自室
私はノアに連れられて、元書斎だったあの部屋へとやってきた。
「好きなところに掛けて」
ノアにそう言われ、とりあえず私のために買ったと言っていたワインレッドのソファーに座る。
するとノアは満足げな笑みを浮かべ、鼻歌交じりに入口の扉の方へと再び戻っていった。
両開きの扉を、上機嫌に少しだけ開いて外へと顔を出す。
「サンキュー、リチャード」
扉を開いたそこには、リチャードがティーセットを乗せたボードを手にして平然と立っていた。
ノアはリチャードからティーセットを受け取ると、颯爽と身を翻してこちらへと戻って来る。
一礼をしたリチャードが、音もなく扉を閉めて立ち去った。
「それで、どこまで話したっけ?」
紅茶の入ったカップを私に手渡し、少し離れたソファーへと腰を掛けたノアは、足を組みながらそう言った。
表情を見る限り、彼は話の続きがどこからかなんてことは、明確に把握している。
その様子に、呆れてため息すら出ない。
「あなたとジュリアスは―――」
「ああそうそう。どういう関係か、だったね」
「……」
こんなにイライラしてしまうのは、事件の真相が全く別のものである事を予感して、自分の力量不足を痛感しているせいなのだろうか。
「先に言っておくけど、不健全な関係では断じてないからね?」
いや、単にノアが私をおちょくっていることが丸分かりだからだ。
私の不機嫌度が増したことを感じ取っても尚、ノアは楽しそうな笑みを崩さない。
「そんなに古くからの知り合いって訳じゃないんだよ。つい最近、本屋で知り合った。もちろん僕は顔がばれないように変装していたんだけどね。普段はあんまり他人でも知り合いでも、街ではむやみに声を掛けないんだ。でも、その時彼は、興味深いジャンルの本を手にしていたんだよ」
やっと続きが語られる。
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