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答え合わせ
「セセロハ、って……」
「そう。ちょうど今日、僕が姉さんに教えた花のことだよ」
もちろん覚えている。
ある特殊な育て方をして性質の変わった、毒素を持つ植物。
ノアの作り出した、架空の植物。
「あの話は、嘘だって言っていたじゃない」
「うん。セセロハって植物は、僕があの時姉さんをからかうための作り話だよ」
(本当に悪気の無い顔で言うのね)
「でも、毒を持つ植物に作り替えることは、どうやら可能だったみたいだね」
私の手の中の花を愛おしそうに見下ろすノア。
一体、こんなものどこから調達したのだろうか。
「ソフィアの自宅からだよ」
深い青色の瞳に射抜かれたその瞬間、私は脳内で繰り広げられた一連の真実を、認めざるを得なくなってしまった。
ソフィアはロミナを殺すため、父であるロイドが持つ薬草学の資料を基に毒草を作り上げたのだ。
その植物から絞り出したエキスを小瓶に詰めたソフィアは、あの舞踏会の日に、ロミナに毒を飲ませた。
ロミナの偽の毒を、本物にすり替えていたのだろうか。
いや、コレクション棚には鍵が付いていた。
例えロミナに一番近いメイドであるソフィアだったとしても、その棚の容器を出し入れするのは難しいだろう。
それに、ロミナがどの偽物を用いるかは予測が付かない。
もしすり替えるなら全てのコレクションに細工をしなくては確実ではないが、棚の毒は一つ残らず偽物だった。
もっと言えば、ロミナはきっと偽物の毒ですら、何があっても口にすることはないだろう。
口にしてしまえば、偽物であることがバレてしまう。
演技でその場をやり過ごしたとしても、直ぐに回復してしまえば微弱な毒であると判断され、脅し文句として効果が薄れてしまう。
きっと、ソフィアはそれを見抜いていた。
"実は、ロミナ様。私もその美容薬、ジュリアス様からいただいたんです"
不意に、嫉妬心を煽るようなソフィアの声と姿が脳裏に浮かび上がった。
ソフィアは小瓶を見せつけた。
そう。ジュリアスからの贈り物であるあの美しい小瓶だ。
ジュリアスは小瓶を、ロミナとソフィア、二人にプレゼントしたのだ。
花の装飾が施された薄桃色の小瓶をロミナへ、そして、貝柄の装飾が施された爽やかな青色の小瓶をソフィアへ渡したのだろう。
毒殺を決行すると決めたソフィアは、自分とジュリアスとの関係をばらし、ロミナを怒らせた。
ロミナは自分が貰った空の小瓶と、ソフィアの持つ薬入りの小瓶とを比較し、恋人としての格差を感じた。
簡単に激昂したことだろう。
"あなたがジュリアスを誑かしたのね! この泥棒猫!"
きっとこんな風に。
ジュリアスが姿をくらませていた理由に、ソフィアが関係していると考えたロミナは、コレクション棚を開け、いつものように毒をかざして怒鳴り散らす。
元々怒らせることが目的であるソフィアに、ロミナの脅しに応じる意思はない。
思い通りにいかなかったロミナは、ソフィアの手から小瓶を奪い取り、やけくそとばかりにその中身を飲み干した。
ロミナはまんまとソフィアの術中にはまってしまったのだ。
ロミナの手の中で破損した小瓶はそのまま放置し、ソフィアは代わりにロミナの薄桃色の小瓶を盗んでいった。
ただ単にロミナの持っていた薄桃色の小瓶を気に入ったからか。
ロミナの手元にジュリアスからの贈り物を残しておきたくなかったからか。
明確な動機を知ることは、もはや叶わない。
だが、強い殺意を持ってロミナに毒を仕掛けたことは、容易に想像できる。
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