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「ソフィアはどうしても、自分が真の恋人であると、ロミナに示したかったのね……」
こっそりと仕掛ければ、もっとリスクなく殺せたものを……。
「ソフィアももう、我慢の限界だったんだろうね。初めから毒を持っているスズランをベースに選んだところも、かなりの殺意が窺えるよ」
しかし、用いた毒は素人が資料を見て作り出した、信用性の無いものだ。
もし効果がなかった場合、ただロミナを怒らせたという結果だけが残り、ソフィアは自分の身を限りなく危険に晒すこととなる。
(よほど自分の作った毒に自信があったのね……)
「そりゃそうだろうね。だって、実験の結果は良好だったわけだし」
「実験?」
私の問いかけに、ノアが不敵な笑みを浮かべた。
その笑みによって、嫌な想像が引き出されてしまう。
「まさか……」
「うん、そう。あのジュリアスの偽の死体さ、ソフィアが実験で毒を盛ったホームレスなんだよね」
ノアは微笑みを崩すことなくそう言って、ソファーに深く腰掛けた。
「証拠隠滅も、ジュリアスと約束したことだからね」
ノアの微笑みを、まともに見ることができない。
「流石に、あの死体がソフィアの実験の被害者だなんて、ジュリアスは微塵も思っていないだろうけど」
「......死体は、どこから?」
「ポリュデウケス団が回収してた。ディオクロイス家の名前を出せば、簡単に引き取れたよ」
(また、私の振りをしていたということね……)
余りの悪びれの無さに、もはや怒りなど沸き上がらない。
「この毒植物も、契約の一部さ。僕が直々に隠蔽処理を施すためのね」
(そんなこと言って、本当はただ見たかっただけでしょ……)
私は呆れ切った視線をノアに送ってみるが、ノアは素知らぬ顔で鼻歌を歌うだけ。
「あなた、これからどうするつもり?」
「どうするって?」
質問の意味を理解しているくせに、ノアはわざととぼけた振りをする。
「ふざけないで。今まで黙ってたってことは、あなたは犯罪者を野放しにするつもりだったということでしょう?」
「ん? 黙ってたのは姉さんが困ってるところを見るためだよ」
(また悪びれもなく……)
「でも、確かに僕はこれ以上、逃げた二人をどうこうする気は無い。でなきゃそもそもジュリアスに手なんか貸さないさ」
「ロミナを失ったカストピール伯爵夫妻に対して、何とも思わないの? 真の犯人を教えるべきだと思わないの?」
「何の気休めにもならないよ。ひた隠しにしてきたロミナの気性が、よりにもよってディオクロイス公爵令嬢に知られてしまったなんて、わざわざ教えてあげる気?」
「……」
「ソフィアの動機やジュリアスの逃亡も全て公言するならば、ロミナのヒスは当然避けられない事実。大々的に世間に知られることになる。カストピール家はまた噂の的だね」
ノアは機嫌よく笑い飛ばした。
「……メガートン夫妻は? 息子を失ったと勘違いしたまま、悲しみに暮れて生きていくの?」
「息子が犯罪者と逃亡したって事実よりはましなんじゃない?」
私は言葉に詰まる。
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