ロミジュリ事件終結

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ロミジュリ事件終結

 翌日、私はポリュデウケス団の司令部へ出向き、 『納得のいく証拠が揃いました。記事はそのままで結構です。終結としましょう』  そう告げてきた。  結局、私はポリュデウケス団には何も語らなかった。  私がノアの言う通り、一連の事件の真相を公言しないことにしたのは、決してディオクロイス家の体面を守る為ではなく、これからこの街で生き続ける、当事者たちの気持ちを汲んでのことだ。  決して、私の立場が危ぶまれるからでは、決して、決してない。 「おかえり姉さん。どうだった?」  ディオクロイス邸に戻れば、ホールのエメラルドグリーンのソファーに腰掛けたノアが、何とも気の抜けた声を掛けてくる。  だが、手元の本に視線を落とすその姿は、まさに高貴なる紳士と言わざるを得ない。 「どうもこうもないわ。何も、していないのだから」 「確かにそうだね」  ノアは本をパタリと閉じ、跳ねるようにして立ち上がる。 「全然、納得してない顔してる」  恐らくにやけているであろう口元を器用に本で隠し、ノアはからかうような口調で言う。 「当たり前よ。百歩譲って、カストピール夫妻やメガートン夫妻へ嘘を吐くのは、まあ、仕方ないわ」  黙っていることによって、彼らが不幸のどん底に落ちていくことを防げるのなら、それは甘んじて受け入れよう。  しかし、私が未だに納得がいっていないのは、そこではない。 「でも、ソフィアは言わば、危険人物なのよ? そんな人間を罰せずに、あろう事か目の届かない場所へ逃がしてしまうなんて……」  新たな犠牲者が出るかもしれないのに、このまま追わずに放置するなんて、民の安全を守る立場としてあってはならない行為だ。 「大丈夫だよ。もし犠牲者がでたって、それはどこが別の街のお話だからね」 「よく……そんな無責任なことが言えるわね」  昨日の夜に何度も繰り返した話題にも関わらず、ノアの発言とその表情に再び怒りが湧いてくる。  自分の利害に関わること以外は、全く興味がない。 (言わざるを選択した私には、もう彼らが新たな犯罪に手を染めないように祈ることしかできない……)  ノアの力なくして、この事件の真相へは辿り着けなかった。  きっと、ディオクロイス家の力をもってすれば、遠くへ逃げ去ったソフィアたちを捉えることは酷く簡単なことだろう。  だが、ノアも私もそれをしない。  ノアは興味すらない。  私は、自分の力不足が恥ずかしいから、中途半端に手を出したくない。 「あなたとは、一生をかけても分かり合うことはできないでしょうね」  そして、不満解消の矛先はノアへと向けられる。
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