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「一人で危険なところへは行かせない。姉さんが探偵を続けたいなら、僕もついて行く」
次々と繰り出される言葉は、まるで、恋人に一生の愛を誓うかのような、そんな言葉。
「ディオクロイス家当主として、姉さんを全力で守ると誓うよ」
吸い込まれるような、圧倒されるような、そんな雰囲気だった。
「……本来、当主を継ぐのは長男の役目。昔からそれは、決まっていることよ」
抗えない魅力が、彼にはある。
「ふふふ。素直じゃないなあ」
私の気持ちを分かっていながら、敢えて私が言葉にするのを延々と待つ性格の悪さを棚に上げて、ノアはそんな風に呟く。
(本当に、こんな捻くれ者にディオクロイス家を任せていいのかしら……。でも、頂点に立つ者としての素質は、私の遥か上をいっていることは認めざるを得ない。今回の事件の情報量、考察力も、悔しいけど完敗だわ)
犯罪者の逃亡に手を貸したノアは人でなしだ。
罪のない人間が犠牲になったと言うのに、殺人を許容するノアは、平和を願う人々の敵だ。
とても、街を統治するに相応しい人間とは思えない。
それなのに、こんなにもディオクロイス家の当主として、頼もしいと思えてしまうのは何故?
ただ楽な道を選んだ怠惰な自分を、正当化したい私の醜い心のせいなのだろうか。
ちらりとノアに目を向けると、ノアは私の迷いも全てお見通しであるかのように微笑んだ。
「早速明日、舞踏会を開こう。リチャードに頼んで街中に招待状を配るよ」
そして、私の不安や迷いを散らそうとしてか、ノアは話題を舞踏会へ戻した。
(街中って……。随分と盛大ね。それなのに明日?)
「急ね。何をそんなに急いでいるの?」
「別に何も。ただ、姉さんの隣を、堂々と歩きたいだけだよ」
余りにも爽やかに放たれたその言葉に、私は呆気に取られてしまう。
そんな私を見て、ノアはとてもご満悦だ。
「みんな驚くだろうね。今からすんごく楽しみだよ」
(一体、なんて言って登場するつもりかしら?)
「もうシナリオは決まってるんだ」
「シナリオ?」
「うん。聞きたい?」
上機嫌に鼻を鳴らして、ノアは私が答えを欲するのを待っている。
「ほんと、性格が悪いわ」
「傷付くなあ」
「いいから早く教えてちょうだい」
「ドッキリってことにしよっかなって」
「はい?」
ノアの口から、瞬時には理解できない言葉が吐き出される。
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