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5、灰色の中の雑音
* * *
こんなにも早く見つけたものが役に立つとは、とカタギリは思った。
アリサはマットレスに寝かされ、毛布をかけられて眠っている。
しかし健やかな眠りとはほど遠く、顔には苦悶が浮かんでいた。眉がしかめられ、顔色も悪い。
アリサが倒れた後、シュウがアリサを背負って、元々マットレスを設置しておいた近くのビルの一室へと運んだのだった。
カタギリとシュウは長いこと、黙ったままアリサが回復するのをそばで待っていた。
だが、アリサが目覚める気配はなく、息はあるが声をかけても反応はない。単に攻撃を受けたショックで意識を失ったわけではないことは明白だった。
シュウはガラスのはまっていない窓枠に腰かけ、外を見つめていた。陽は暮れて、シュウの体がシルエットになりつつある。横顔の輪郭が、仄白く浮かび上がっていた。
カタギリは壁にもたれて立ち、腕を組んでシュウを眺めている。
やがてシュウの視線がこちらに向けられた。意見を求められているようだったので、カタギリは口を開いた。
「俺は……アリサが状態異常に陥ったんじゃないかと考えていたんだ」
「状態異常?」
「ああ。キャラクターが攻撃を受けて石化したり麻痺したりする、アレだ」
アリサに外傷はなく、本人ではないので断言はできないが、あの時のダメージは致命的なものではないように見受けられた。しかし、目を覚まさない。
理由があるとすれば、あの時の敵の攻撃に特殊な効果があり、それが今も続いているということではないだろうか。
「アリサが攻撃された時、一瞬緑の光が散っていた。本人も怠いと言っていたし、『毒』の可能性もある」
「毒……」
呟いて、シュウは横たわるアリサに目をやった。
カタギリの予想通りにアリサが毒を受けたとすると、事態は深刻だった。こうしている間にも、徐々に体力が減りつつあるかもしれない。
体力がなくなるとどうなるのかはまだ判明していない。単純に身動きがとれなくなるだけか、それとも生命が――生命らしきもの、と言うべきか――が終わるのか。
とにかくアリサの体力の回復を試みるために、アイテムを持ってくるべきだろうとカタギリはこれからの行動について考えを巡らせていた。
「あの化け物が毒をもっていた、ってことか」
「おそらくな」
「でも、どうして……」
疑問を口にしようとしたシュウだったが、言葉が途中で消えてしまう。ここでは答えを得られない問いが多すぎて、いつからか彼は問いを口にするのすら拒むようになっていた。
シュウが言いたかったのは、どうして街中にあんなものが飛来したのか、ということだろう。
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