6、光

1/3
前へ
/25ページ
次へ

6、光

 あれから五日かけて、街中の建物を大方探し終わった。街の真ん中辺りと思われる場所でシュウと出くわす。  聞くまでもなく結果は明らかだった。そうだろうと覚悟もしていた。  お互い何も見つけられなかったし、アリサの容態も変わらず。化け物の再来はなく、変わった出来事はない。  見落としがあるかもしれないからもう一度さがしてみよう、という程度の案しか出てこなかった。  アリサが倒れて七日目。  カタギリはビルの中をひたすら無心で歩き回っていた。  立ち止まって窓の外を見下ろすと、シュウが街の外に向かって歩いていく姿があった。  彼は街中の探索に見切りをつけ、街の周囲に手がかりを求めることにしたらしい。本人はそう言うが、ザコ敵相手に憂さ晴らしするのが目的だろう。  アリサを失ってしまうのではないか。そんな恐怖に押し潰されそうになっているのだ。小さな制服姿を見ていると、無力感に苛まれた。 「俺は何もできない役立たずで……それに、嘘つきだ」  これからもカタギリは、彼らの前でオトナであることをやめないだろう。誰よりも信じていない夜明けの到来を信じるよう促すだろう。  埃っぽい室内を歩いていると、昨夜、暗がりのせいで見落としていた奥の部屋を発見した。確認してみると、片隅に転がっているものがある。 「鞄だ……!」  駆け寄って、手にとった。  カーキ色の、あまり大きくないリュックサックである。慌てて中を見てみると、空ではなくていくつか物が入っている。  カタギリはそれを一つずつ取り出して床に並べた。  本が二冊と、鉛筆が三本。これきりだった。  本の方はどちらも中身は真っ白で、現状役に立ちそうな書きこみはない。意味のない小道具の一種に見える。 「……いや」  意味が全くない、とは言えないか。  幸い鉛筆もある。ここには文字を書きこめる。 「シュウ、アリサ。俺はお前達にとっては、嘘ばかり言う、頼りがいのない男なんだろうな。そうとも、俺は、とっくに、自分のことなんて諦めてるんだ……」  白紙のページに向かって、独白する。 「でも俺は、自分のことは諦めても、お前達のことは諦め切れない」  シュウが聞いたら、保護者面しやがって、と冷笑するだろうか?  それでも構わない。  あの少年少女には大人が、自分が必要なのだ。  自惚れかもしれないが、そう信じている。どこまでも見守ること――この世界で横たわらない理由があるとすれば、その一つきりだった。  カタギリは、白いページに鉛筆の先を乗せた。握る指先は力がこもって白くなる。自分については何一つ思い出せないのに、文字は忘れていないことに安堵した。 〈私の名は、カタギリ。〉  筆跡には見覚えがなかった。それなのに、目にすると郷愁に胸が締め付けられるのだ。
/25ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3人が本棚に入れています
本棚に追加