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6、光
あれから五日かけて、街中の建物を大方探し終わった。街の真ん中辺りと思われる場所でシュウと出くわす。
聞くまでもなく結果は明らかだった。そうだろうと覚悟もしていた。
お互い何も見つけられなかったし、アリサの容態も変わらず。化け物の再来はなく、変わった出来事はない。
見落としがあるかもしれないからもう一度さがしてみよう、という程度の案しか出てこなかった。
アリサが倒れて七日目。
カタギリはビルの中をひたすら無心で歩き回っていた。
立ち止まって窓の外を見下ろすと、シュウが街の外に向かって歩いていく姿があった。
彼は街中の探索に見切りをつけ、街の周囲に手がかりを求めることにしたらしい。本人はそう言うが、ザコ敵相手に憂さ晴らしするのが目的だろう。
アリサを失ってしまうのではないか。そんな恐怖に押し潰されそうになっているのだ。小さな制服姿を見ていると、無力感に苛まれた。
「俺は何もできない役立たずで……それに、嘘つきだ」
これからもカタギリは、彼らの前でオトナであることをやめないだろう。誰よりも信じていない夜明けの到来を信じるよう促すだろう。
埃っぽい室内を歩いていると、昨夜、暗がりのせいで見落としていた奥の部屋を発見した。確認してみると、片隅に転がっているものがある。
「鞄だ……!」
駆け寄って、手にとった。
カーキ色の、あまり大きくないリュックサックである。慌てて中を見てみると、空ではなくていくつか物が入っている。
カタギリはそれを一つずつ取り出して床に並べた。
本が二冊と、鉛筆が三本。これきりだった。
本の方はどちらも中身は真っ白で、現状役に立ちそうな書きこみはない。意味のない小道具の一種に見える。
「……いや」
意味が全くない、とは言えないか。
幸い鉛筆もある。ここには文字を書きこめる。
「シュウ、アリサ。俺はお前達にとっては、嘘ばかり言う、頼りがいのない男なんだろうな。そうとも、俺は、とっくに、自分のことなんて諦めてるんだ……」
白紙のページに向かって、独白する。
「でも俺は、自分のことは諦めても、お前達のことは諦め切れない」
シュウが聞いたら、保護者面しやがって、と冷笑するだろうか?
それでも構わない。
あの少年少女には大人が、自分が必要なのだ。
自惚れかもしれないが、そう信じている。どこまでも見守ること――この世界で横たわらない理由があるとすれば、その一つきりだった。
カタギリは、白いページに鉛筆の先を乗せた。握る指先は力がこもって白くなる。自分については何一つ思い出せないのに、文字は忘れていないことに安堵した。
〈私の名は、カタギリ。〉
筆跡には見覚えがなかった。それなのに、目にすると郷愁に胸が締め付けられるのだ。
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