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アリサ、シュウ、カタギリは、気づいた時には街のそばに立っていた。
自分の名前以外の、自分に関する記憶は何も持っていないに等しい状態で。何をしていたのか、どこに住んでいたのか。一切、思い出せない。
ひょっとすると、そもそもどこにも存在していなかったのかもしれないが。
とりあえず三人は自己紹介をした後、街やその周辺を探索してみることにした。
そして奇妙な事実を知る。自分達はまるで、ゲームの中のキャラクターのようになってしまっていたのだ。
敵との戦闘がまずそうだ。ダメージを負えば、これくらい体力が減った、と感覚でわかる。そして減った分はアイテム――リンゴやメロンパンで回復できた。
空腹は覚えないので食事は不要。その他の生理的欲求もなし。生身の人間では考えられないことばかりだ。
三人なりに考えて、いくつかの仮説を立ててみた。
①自分達は、ゲームの世界に召還された。
②自分達は、最初からゲームのキャラクターだった。
二番目の説はあまり気持ちの良いものではなかった。
こうなってしまってはどちらにしろ変わらないかもしれないが、あくまでも自由意志のある有機的な一個体であったと信じたい。
そしてこの世界も妙な部分が多かった。
ゲームのような世界であるというのは疑いようがないものの、それにしても酷く「壊れて」いる。
敵は数種類似たようなものがいて、攻撃は単調。姿がブレているから人型という以上の特徴は見いだせない。
街は崩れて、周囲に見当たるものはなかった。足をのばせば他にも街はあったが、不気味なほど造りがそっくりだった。
この世界は変化がなく、壊れた日々が繰り返されるばかりだ。
「だからさ、終わっちゃってんだろ」
シュウが投げやりに、そんなことを言い出した。
「この世界がゲームの世界だとして、その外側に別の、まともな世界がある。そこが終わったんだ。世界は滅亡して、ゲームのプログラムも残骸しかない。メンテナンスをする奴も、作り直す奴もいない。俺達は、そういうところに閉じこめられてるんだ」
「だとしたら、私達、どうなるの?」
たまらずアリサは尋ねてみる。
「永遠にこのままなんだよ」
永遠。
あまりにも重すぎる言葉だった。
一日でも百日でも、千日過ぎたとしても変わらない。自分達も、この街も。時間というものがほとんど無意味になっている。
同じ日を繰り返しているような――それでいて、内面には苦痛として降り積もっていくのだから厄介だ。
同じところを行ったり来たりする振り子。私達は、振り子が何往復したのかつい、数えてしまう。数えまいとしても、それが幾度となく繰り返されていることを意識してしまう。
この世界でただ、途方に暮れるしかなかった。
誰かに仕組まれたことならまだよかったが、そういった気配もない。全てが漠然としていて曖昧で、崩れていた。多分、一種のアクシデントなのだ。ここにいるべき「理由」が与えられていないであろうことは明白だった。
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