2、次の街へ

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 * * * 「馬鹿だな、お前。あんなの、決められた台詞を喋ってるだけだ。見りゃわかんだろ、バグってるって」 「でも、誰かが言葉らしい言葉を発したの、初めてじゃないの」  崩れかけた壁の上に、シュウが腰掛けている。  繊細な少年らしい顔立ちは、溜めこんだ不満によって険しく歪められ、ほとんど常にそのまま固められつつあった。 「あんなのに話しかけ続けるなんて、どうかしてる。壁に向かって話す方が、まだ有意義だ」 「根気よく続けたら、新しい情報が得られるかもしれないよ」 「バグからわかるものなんてねぇよ」  アイテム屋の店主(と便宜上呼んでいる)が雑音を混じらせつつではあるが言葉を発したという事実は、三人に少なからず衝撃を与えた。  だが、壊れたレコーダーみたいに同じ台詞しか喋らないので、シュウなどは即座に興味を失ってしまった。カタギリの反応も、シュウほど露骨ではないが似たようなものだった。ただ、アイテムさがしの手間が省けたのは歓迎するべきことだと言っている。  アリサだけが毎日店主の元に通って、根気よく声をかけていた。もしかしたら、別の言葉を口にするかもしれないという淡い期待を抱いていたのだ。それがとかく、シュウには気に入らないらしい。 「ありがとうございました、の他に、いらっしゃいませ、も言うようになったんだよ」 「くだらねー。九官鳥じゃあるまいし」  シュウが壁から飛び降りて、軽やかに着地する。  アリサがこのルーティーンを続ける限り、シュウの機嫌も直らないとしたら厄介だ。少しでも、やる意義を理解してほしくて、歩き出すシュウをアリサは追いかける。 「知ることは一つでも多い方がいいじゃない? 私達、こうして変わらない毎日を過ごしているけど、今の状態がいつまで続くかわからないし、何かの変化が起きる前に、手がかりとか可能性について、考えなくちゃ……」  シュウが振り向いた。 「些細なことで一喜一憂してたら、身がもたない。何か起こるなら勝手に起こればいいんだよ。これ以上振り回されるのは、御免だね」  シュウは、三人の中で誰よりも切実に、光を欲していたのかもしれない。何度も裏切られたダメージは、アリサやカタギリ以上で。  希望を抱かないように心を閉ざして冷笑するのは、ある意味自分を守るためのことなのだろう。 「お前もさっさと諦めろよ」  今のシュウなら、なんだって、地平線の向こうまで蹴飛ばしてしまいそうだった。  そんな彼に、これ以上かける言葉はなかった。どんな空々しい言葉であっても、言うべきだったかもしれないけれど。  拒絶する背中を見ると、喉が詰まってしまうのだ。
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