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始原世界<カオス>:旅路の始まり
彼は、真っ暗な空間に浮かんでいた。
そこは彼以外には何もなく、地面や空もない。人や動物もいる気配だってなく、どこまでもどこまでも闇が広がっている。
そこに浮かんでいる彼は、しかし、落ち着いていた。
常人であればこのような空間に放り出されれば慌てふためいてもいいものを、彼は全く動じた様子もない。目を閉じたまま身じろぎもせず、静寂に身を任せて浮かんでいる。
彼、ゼノンは、世界の王だった。
争い続ける国々を統合し、世界の統一を成し遂げた唯一の王。
人々は彼の統治の下で平和を満喫し、世界は空前の発展を見せる。民草は彼を救世主と呼び、未来永劫彼の統治が続くことを望む。
最早世界の全てを手に入れたと言っても過言ではないゼノンは、しかし、それでも尚満たされることがなかった。
彼がこの空間に浮かんでいるのは、とあることを確かめたかったから――その答えがようやく、明かされるからだった。
ふと、闇に変化があった。
そこかしこから光が湧き上がり、そこに何かの光景が浮かび上がる。そこでゼノンは目を開き、それらに目を遣った。
浮かび上がったのは、様々な場面――しかしそのどれもが悲劇といってよいもの。戦争や貧困、様々な事柄で苦しんでいる者達の姿……ありとあらゆる場所で、同じような光景が繰り広げられていた。
それらを見る彼は、拳を震わせる。そして初めて、口を開いた。
「これが、私の求めていた答えか?」
怒りに満ちた声で、誰にともなく言う。
すると空間全体が震えたように動き、ゼノンは口を震わせて「そうか」と言った。
「どのような場所でも、こういったことは繰り返されているのだな……ならば、もう迷うまい」
そういった彼は腕を広げる。次いで、「『神』よ」と叫んだ。
「先に伝えた通りだ。私は、私の意志を貫く。……世界とは悲劇である……そんな当たり前の言葉など、もういらぬ」
己の言葉に、胸に湧き上がる想いを乗せて彼は言葉を紡ぐ。
それこそが自身の使命であるという確信を伴わせて、
「そんな言葉など、私が覆してみせよう――この、『天王』ゼノンが」
ゼノンは、宣言する。
次の瞬間、爆発的な光が起こって、暗闇だけの空間を輝きが飲み込んでいった。
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